深獣九

病院坂の首縊りの家の深獣九のレビュー・感想・評価

病院坂の首縊りの家(1979年製作の映画)
3.5
これは伝統芸能。

美しい映像。
計算されたカメラワークと演出。
過剰とも言える熱演。
謎解きパートの長さや、ふんだんに盛り込まれたインサート。2時間15分を超える長尺だが、それもうなずける贅沢な作り。
現代に受け入れられるかどうかは別として、このシリーズはやはり日本映画史に残る作品であることは間違いないであろう。

『病院坂の首縊りの家』はシリーズ第5作だという。だからなのか、私の記憶している金田一耕助映画とはやや趣が異なるような気がする。あのおどろおどろしい雰囲気は薄まり、コメディ要素が目立っている。主要人物がJAZZバンドであることからか、挿入されている音楽もJAZZなので風景とはそぐわない。チャレンジだったのかもしれないな、監督としては。

複雑な人間関係に翻弄された女性(母)の悲しみを描いたラストには、胸をつまらせた。
昭和初期を描く作品に触れるとき、日本における女性の有り様について思いを巡らせることが多い。本作でも女性がモノとして扱われている様を見て、なんだかつらい気持ちになる。現代ではだいぶましになったのかもしれないが、それでもこの国の女性はまだまだ蔑ろにされているように感じる。
警部はもちろん男性で、だからたいそう高圧的だ。男性優位社会の象徴なのだ。
本筋とは関係ないけど。

犠牲者の数は物足りないし刺激的なシーンも少ないが、映画好きとしては履修しておくべき作品である。
深獣九

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