櫻イミト

スタンダール・シンドロームの櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
ダリオ・アルジェント監督×娘アーシア主演の第二弾にして後期最高傑作。知的でアートなサイコスリラー。音楽エンリコ・モリコーネ。”スタンダール・シンドローム”とは、芸術作品鑑賞時に眩暈や動揺に襲われる症例。文豪スタンダールが同様の体験を記していることから命名された。

連続猟奇レイプ犯を追う若い女刑事アンナは、情報提供者から呼び出されて、フィレンツェ・ウフィツィ美術館のある名画の前で待っていたが、やがて絵の中に吸い込まれた気分になって失神するという“スタンダール・シンドローム”に襲われた。アンナは居合わせた若い男に助け起こされるが、その男こそ連続猟奇レイプ犯・アルフレードだった。。。

かなり面白かった。高橋ヨシキ氏による映画評を読んで興味を持って鑑賞したのだが、”アートとの合一”、”映画そのものとの合一”という批評通りの傑作と感じた。それは”彼女がミケランジェロのピエタ像のように運ばれていく場面において、皮肉で痛切な形で実現する”。

劇中で映し出される絵画それぞれに意味が込められているはずだが、「ダヴィンチ・コード」(2006)とは主旨が違い解説は皆無。以下ネットで調べたメモ

■フィレンツェ・ウフィッツィ美術館
・ウッチェロ「サン・ロマーノの戦い」
・ボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」
・ボッティチェッリ「プリマヴェーラ」
・カラヴァッジョ「メドゥーサの首」
・ブリューゲル「イカルスの墜落のある風景」※水中妄想で気絶
■ウフィッツィのホテル寝室
・レンブラント「夜警」※自分が刑事だと思い出す
■ヴィテルボの実家の自室
・ブリューゲル「イカルスの墜落のある風景」※再
■レイプ魔の部屋
・カラヴァッジョ「ナルキッソス」※水鏡

都市そのものが美術館とも言えるイタリアで育った監督たちは常に美術史と対峙しながら創作していること、そしてアルジェント監督もまたその一人であることを本作で再認識した。

アーシアは本作で”メンヘラ・ヒロイン”としての個性を確立。父親からの虐待、レイプ被害、男性性と女性性の間の揺らぎと同一化など、フェミニズム的観点からも問題を投げかけている。

本作は本国イタリアで同年公開の「セブン」(1995)を上回る大ヒットとなり、それまでアルジェントを無視してきた映画批評家たちからの再評価のきっかけとなった。
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