健常な者にとって不都合なものを透明な存在にする社会。 厄介なものをできるだけ排除したいし、理解もしたくない。そんな冷淡さを痛感するし、それを生み出しているのは快適さを追求している自分自身なんだと突きつけられた感じ。本当、私も共犯なんですよね。
確かにジョンドゥは厄介者で、家族の誰からにもつまはじきにされている。その理由はまあわかります。全く周りが見えないし衝動的・感情的に動いてしまう。知的障害ボーダーかもと思わせる行動も多々。できれば関わり合いたくない前科者のやばいやつ。話が大きく展開するきっかけとなる、彼の強姦未遂のシーンは本当に見ていて辛くなったので、苦手な人はそこを避けた方がいいと思います。こんな彼の面倒をよくみてる弟は偉いと思ってしまう。コンジュに対しても最初見たときはギョッとしてしまいまして、主人公二人に対して美化しないところが素晴らしい。脳性麻痺の人という難しい役どころを演じたソン・ムリはすごすぎる。二人が出会うきっかけからして、所謂ピュアなラブストーリーと言うには無理があるでしょう。しかし、いびつで不器用すぎる二人が、関係性を構築していく様子は正に恋愛映画。我々から見たら異常な出来事や振る舞いがありますが、当人同士ではきちんと筋が通っており、観客にもそれがだんだん理解・共感できるような構成になってるのは流石だと思います。ジョンドゥの純粋で裏表のない態度が、すねに傷ある人にとっては攻撃と捉えられてしまうことがわかるあのシーンも秀逸。
疑問だったのは強姦にあいそうだったコンジュがその加害者に対して関心を持つところ。自分を初めて一人の人間として見てくれたから？加害者に対して被害者を惹かれてしまう構図は大分異様ではあるけれど、その異様さでしか彼らが繋がれない社会の冷たさがここに映し出されていると思いました。
理不尽まみれの終盤ですが、自分が関係者だったら主人公二人の家族と似たような態度をとってしまうだろうなと。しかし、人にとって非常にプライベートな行為であるセックスにすら決定権がないのは残酷の極みで、人の尊厳を踏みにじっているような。結局兄夫婦はマンションにいなかったんでしょうね。ラジオ止めてなかったし。
Wikipediaによると「出所したジョンドゥが小さな食料品店の店先で豆腐にかぶりつく場面があるが、これは韓国の風習で刑期を終えて出てきた人間が、身も心も潔白になるようにと白いもの（豆腐や牛乳）を食することによるものである。本来なら迎え出る人間が用意しておくものだが、ジョンドゥは誰にも迎えに来てもらえなかったため自ら買って食べた。」だそうです！
