てつこてつ

8人の女たちのてつこてつのレビュー・感想・評価

8人の女たち(2002年製作の映画)
4.5
自分にとっては衝撃的だったフランソワ・オゾン監督初体験作品。劇場公開時以来の再鑑賞。

原作が戯曲で、フランスではもちろん、日本でも何度か劇場公演されているだけあって、要所要所の見せ方がとっても演劇調で、それがまた作品の世界観を表すのに実に効果的。

1950年代のフランスのとある町の豪邸で起きた密室殺人。この映像化作品では、エンディングに待ち受ける驚くべきドンデン返しを含め、ストーリーの流れなんてどうでもよくなるくらい、登場キャラクターたちを演じた女優陣の魅力を存分に引き出してくれている。オゾン監督は、本当に女優さんを美しく撮影するなあと改めて感服。

ダニエル・ダリュー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダン、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエら、フランス映画界の製作当時の各世代を代表する新旧大女優陣が勢揃いという、とにかくキャスティングが豪華。

50年代のディオールのファッションスタイルを参考にしたという各女優陣が身に纏う衣装の美しさに加え、正面に大階段を構えた豪邸のセットの一つ一つ・・絵画、壁紙、家具、深紅の花柄のカーペットと色使いが素晴らしい。ほぼオールセットでの撮影かと思われるが、背景の窓の外に降り続ける雪の描写など、監督や美術スタッフの強い拘りがしっかり伝わる。

これだけ美しい女優陣、美しい衣装やセットを揃えながらも、内容はしっかりとフランス映画らしいエグ味やブラックユーモアに溢れており、話が進むにつれ、各キャラクターの台詞に意味深でアダルトな物が盛り込まれているギャップが凄く面白い。

各キャラクターが唐突に歌やダンスを披露する演出は、原作には無いものかもしれないが、いわゆるミュージカルナンバーと言うよりシャンソンなので、歌の上手い下手を超越した各女優の持ち味がしっかり出ていて心に沁みる。シャンソンではダリダの「18歳の彼」が一番好きだが、本作でもフランス語ならではの発音、リエゾンの美しさが堪能できる。

一度に7名まで画面に収めるワイドショットの手法と、必要以上に女優の表情に肉迫したワンショットの手法の使い分けとか、しっかりオゾン監督らしさが出ている。エンディングの8人の横並びとかあまりにも秀逸。

名シーンは幾度となく登場するが、個人的には、ファニー・アルダンが黒づくめの衣装で登場した後にコートを脱いで目にも鮮やかなオレンジ色のコスチュームで歌い出すシーン、メイド役(字幕がずっと“メード”となっていたのが気になって仕方なかった!)のエマニュエル・ベアールが髪を下ろすシーン、眼鏡でしかめっ面のイザベル・ユペールが大胆にイメージチェンジをし大階段をゆっくりと下りてくるシーン(「地中海殺人事件」
のジェーン・バーキン以来の衝撃!)、そして、何と言っても終盤の真っ赤なコスチュームのファニー・アルダンとグリーンのコスチュームのカトリーヌ・ドヌーヴのあのシーン。

いやあ、本当に見ていて幸せな111分だったし、きらびらかに輝くクリスタルのシャンデリアからの蘭、薔薇、ヒマワリ等怪しげに咲き誇る花々の接写のオープニングロールから全編通して“眼福”=eye pleasureな芸術作品。但し、本作を殺人ミステリー、もしくはミュージカル映画として鑑賞すると大いに肩透かしを食らうこと必至。

昔NHKで放送されていたアメリカンコメディ「アリー・マイ・ラブ」でヒロインが、「『ムーラン・ルージュ』を好きと言えるような心を持った人と付き合いたい」といった名台詞があったが、個人的には本作を好きだと言ってくれる人でないと友情は結べないかも・・😂
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