カラン

バニシング・ポイントのカランのレビュー・感想・評価

バニシング・ポイント(1971年製作の映画)
5.0
コロラド州のデンバーから、カルフォルニア州のサンフランシスコまで新車を陸送する仕事のついでに寄った怪しいスタンドで、15時間以内にサンフランシスコに到着する賭けを男はする。もし翌日午後3時までに着いたら、麻薬の代金をチャラにする賭け。

ほとんど理由もなく砂漠を爆走して、自ら警察を呼び込む展開となり、自殺行為は抑鬱へのぎりぎりの抵抗なのか、その症状なのか、アメリカン・ニューシネマの傑作。

☆光速で

光の速さを示す白いボディの70年型ダッジ・チャレンジャーが砂漠を走り抜ける。彼方に山並みが見える広大な砂漠の道を捉えたロングショットのX軸を駆け抜けるのは、車好きじゃなくても、堪えられないものがある。ニヒルなのに非常に力強い。

☆同じたった1人の女たち

ニヒルな男はひたすらに走り、どんな道でも踏破してしまうが、絡んできて事故った馬鹿を気遣って車を降りたりもする。覚醒剤への依存の兆候を示す。元警官で、警官の同僚による麻薬中毒の少女への暴行を救ってやったのが、ピアノの劇伴と共にフラッシュバックで到来する。あるいは妻が。街娼のように店の外に立っていた女が。ガソリンスタンドの女が。裸でバイクに乗っていた女が。

鬱というのは、何かを喪失してしまい、その失くしてしまった何かに同一化してしまう病気なので、自らもこの世から消えてなくならねばならない。車をひたすら走らせる男が何を失くしたのか、映画は示さない。代わりに、女たちのイメージが飛来して消えていく。すべての女が同じ場所、主人公の虚無の場所に反復強迫のように執拗に到来して、そっと微笑みかける。

全員が別人なのに同じに見えるのである。フラッシュバックの入りも独特で砂漠を走っていて、寒々しい雪景色から暖かい時期の海辺へと無人で移ろって、あの人の回想に繋げる。1つの地点(=バニシングポイント)を占めにばらばらに到来する別々の女たちへの限りない愛を振り払うように男は駆け抜け、そこへと消えていく。女たちのイメージが信じがたい美しさである。男が疾駆し、そして消え去る、根拠である。

女たちはポジショニングなんだろうな。なかなかお目にかかれない離れわざでしょう。タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』(1966)くらいしか思いつかない。


なお、イギリスで先行公開されたのが105分で、アメリカ公開版は98分のようである。イギリス版に出演していた有名女優のシーンがカットされて短くなったようだ。両者で女の扱いが違うのだろう。私が観たのはアメリカ版。

レンタルBlu-ray。5.1chのマルチチャンネルサラウンド仕様。

55円宅配GEO、20分の6。
カラン

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