大道幸之丞

Endless Waltz エンドレス・ワルツの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

実在した伝説のサックス奏者阿部薫とその妻鈴木いづみとの愛と激情のストーリー。同名の稲葉真弓の小説が原作。

なんとなく「ベティ・ブルー」を思い出した。

若松監督が好きそうな世界観ではある。

感覚的な天才奏者でありながら、この時代の風潮でインテリを気取って「デリダ」や「フーコー」を語っている。

キャステングで監督が「ロックっぽい俳優が欲しかったのかな」と思ったが、町田町蔵は阿部薫に容貌が近いのでそれが起用の理由だったのだろう。

ただし演技派の広田玲央名と絡む町田町蔵は存在感だけの俳優なので、演技の稚拙さが辛いが、ほとんどセックスか暴力のシーンばかりなので、なんとか逃げ切った(笑)感がある。

そしてこのセックスシーンが「広田玲央名が起用されたのはこれが理由か」と思わせるほど肉感的で良い。

薫は直情的で、したいことはダイレクトに実行する男だし、いづみは酒が入って興がのると足の小指を包丁で断ち切るような狂気をもつ女だが、この二人は芯では惹かれ合っている。ただし、いづみからすると暴力はいただけないし、子どもが生まれると女性は本能的に肚が決まるので、現実的になる。

結局夫婦の縁もあっけなく離婚となり、いづみを失った薫はマネージャーと昵懇になるが、いづみとは比べるべくもない。むしろ虚無感と孤独感に苛まれ最後はオーバドーズで亡くなる。

作家となったいづみだったが、やはり自身を一番理解してくれていた男は薫しかいなかった事を心底痛感し、彼の許へとストッキングで首を吊る。
それを横で観ていた娘は両親が仲良く二人でどこか遠くへ行く姿を見届けた———

————阿部薫と縁のある当時のオルタナティブミュージシャン群のカメオ出演も話題になったが、古尾谷雅人や相楽晴子らの手堅い俳優の起用が映画を締まったものにしている。

「破滅的」と言えば身も蓋もないが、観終わると、何一つ成就する事が出来なかった二人だが、彼らの人生で「たった一つだけ良いことがあったとすると」やはりお互いの出会いだったのかなと思える。——そう思うと繰り返すが「若松版ベティーブルー」との印象はあながちまちがってはいない気がする。原作も是非読んでみたい。