midored

お嬢吉三のmidoredのレビュー・感想・評価

お嬢吉三(1959年製作の映画)
3.8
歌舞伎は知らずともお嬢吉三が女装の美少年であることくらいは知ってる方も多いのではないでしょうか。今作はそんな中性的なキャラクターが活躍する演目『三人吉三』をベースにしたコミカルな股旅物です。

いつものように雷蔵がやたらとモテてカッコよくチャンバラしつつ、娘姿にもなって男たちを惑わすという性の越境要素が加わるのですから面白くないわけがありません。ヤマトタケルの時代から英雄は女装して敵をあざむくものであります。

女装した雷蔵は江戸風美女といった感じで動きにも佇まいにも違和感がなくてさすがの歌舞伎俳優でした。この人は誰にでもなれるのかと感心します。八百屋お七になぞらえて半鐘を鳴らすシーンも実に絵になっていました。それでもアタイは2枚目ヒーローの雷蔵だよッ!とばかりにやたらとすね毛や腕をまくって男っぽさを強調していてたのはご愛嬌。

原作ではお嬢吉三とお坊吉三が衆道的な関係性らしいのですが、その辺りは影も形もありませんでした。そもそも女にモテまくる雷蔵映画ではあり得ない話でした。

ところで楽しいお話の中、玉緒さん演じる若い娘が売られる場面だけはショッキングでした。貧しい娘が借金のかたに売り飛ばされるというよくある設定なのに、よりにもよって主人公が買い手なのです。主人公なのに容赦なく加害者として描いているのがすごいです。迫真の演技に雷蔵が嫌いになりかけました。

ちょっとした息抜きに「女を買う」という「男のお楽しみ」の背後には奴隷として苦しむ人間がいるという現実の想像力を促す描き方であったと思います。その後、お嬢吉三が一応心を改め、男女の中間に移動して人身売買を阻止せんがめに戦うようになってからは女性キャラクター達にも息が通ってくるのが面白い。お嬢吉三という名前が示す通り、女であり男でもある彼はトリックスターとしてお約束を撹乱する役割を担っているのですね。

原作にも興味がわいてくる良作でした。
midored

midored