パリの郊外にあるヴァルモンドワという町に、有名な画家のポール・オリヴィエが遺した邸宅があった。
そこには、ポールを叔父にもつエレーヌ(エディット・スコブ)が一人で暮らしていた。
エレーヌの75歳の誕生日、彼女を祝う為に、長女のアドリエンヌ(ジュリエット・ビノシュ)、長男のフレデリック(シャルル・ベルリング)、次男のジェレミー(ジェレミー・レニエ)の3人がそれぞれ子供を連れて邸宅へとやって来る。
邸宅には貴重な美術品が沢山あり、エレーヌは長男のフレデリックに、自分の死後にこの邸宅を手放すことと、全ての美術品を美術館へと寄贈して欲しいと頼む。
そしてエレーヌの死後、3兄妹は母に対するそれぞれ違う思いを抱えつつ、エレーヌの残した遺産についての話し合いを始める。
「冷たい水」「カルロス」などの作品を手掛けたオリヴィエ・アサヤス監督の作品。タイトル、ジャケットの美しさに惹かれ鑑賞いたしました。
母の思い出が残る邸宅や遺品を手放したくない長男、母との思い出のある品だけを求める長女、金が必要で早々に遺品を手離したい次男。
母に対する愛情はそれぞれが持っているのに、そのことと遺産の問題は全くの別物であるとし、3人が遺品を手放す手続きをしていく姿は非常に現実的。
「物」の価値とは何だろうか…?と、しんみりと考えてしまいました。
エレーヌの生きていた時、それらは子供達3人と母を繋ぐ思い出の詰まった物としての確かな価値はあったはずなのに、彼女の亡くなった後、美術館にただ展示されている姿に、過去の思い出は感じさせない。
それらは、ただの「価値のある美術品」になってしまったように感じた。
物語の序盤、邸宅の美しい庭を子供達が駆け回るシーンがある。終盤にも似たようなシーンがあるが、庭の美しさは変わらなくても、どこか空虚さを感じた。同じ場所でも全くの別物になってしまったように思えた。
使用人のエロイーズ(イザベル・サドワヤン)だけが、家主のいなくなった家の中を慈しむように眺めているシーンが印象的でした。
邸宅の美術品の数々や緑が生い茂る庭の美しさは残るが、思い出の記憶を無くしたそれらに切なさを感じる作品。