旅するランナー

夏時間の庭の旅するランナーのレビュー・感想・評価

夏時間の庭(2008年製作の映画)
3.8
【やっぱり本物は素敵だ】

母が残してくれた美しい邸宅と美術コレクション。
3人兄妹(シャルル・ベルラン、ジュリエット・ビノシュ、ジェレミー・レニエ)たちによる遺品相続処理。
子供の頃から過ごした場所、身近にあった品々への揺れる思いが描かれます。

この映画は、オルセー美術館20周年を記念して作られています。
そのため、本物のコロー、ルドン、マジョレル、ブラックモンの絵画、家具、花器が使われているらしいです。
やっぱり本物は素敵です。
本物が醸し出す空気感が、パリ郊外ヴァルモンドワのお屋敷の開放的でいて落ち着いた雰囲気と一体になり、映像に焼き付いています。

でも、これらの芸術作品も、お屋敷での生活の中に配されてこそ、活き活きと味わい深い。
美術館へ寄贈され、展示室に閉じ込められ、花も活けられず、自然光を浴びることもなく、観客に素通りされることによって、残念ながら生気を失い、所有していた家族の思い出と共に色褪せていく。
そんなアンチ美術館主張をあえて織り込むところに、オリヴィエ・アサイヤス監督のしたたかさが見えてきます。
古き佳きものへの郷愁と、未来へ受け継がれる微かな希望を感じ取りたい、アートファン垂涎の作品です。