こなつ

ケスのこなつのレビュー・感想・評価

ケス(1969年製作の映画)
4.0
1969年のイギリス映画。ケン・ローチ監督の初期の作品。私が観た初めてのケン・ローチ作品だったが、かなり前に観ていてまだケン・ローチ監督の素晴らしさを知らなかった時だったので、あまり印象に残っていない。今回再鑑賞。

イギリスの片田舎ヨークシャーの炭鉱町を舞台に、母と年の離れた兄と三人で暮らす少年ビリー。弱々しく、勉強嫌いで将来の希望もなく過ごしていた彼が、ハヤブサのヒナを手に入れ、ケスと名付けて飼い始める。暴力的な兄、自分に関心のない母、学校では教師からも同級生からも酷い扱いを受けているビリーは、ケスと過ごす時だけが唯一の楽しみだった。

一貫して労働者階級に焦点を当て描くケン・ローチ監督の原点であるかのように、ビリーの家は貧しく、家庭環境の悪さから彼は平気で嘘をつき、盗みも働き、喧嘩もするという素行の悪さが際立っている。教師も暴力的で体罰が絶えない。生活費を稼ぐため新聞配達をしているが、そういう貧困家庭が珍しくない片田舎で生きている。

今まで勉強もろくに出来なくて馬鹿にされていたビリーが鷹を育て、訓練する為に本を読み、夢中になっていく。鷹の訓練の様子をクラスメイトや教師に話す姿は輝いていた。しかし、ある事をきっかけに悲しい出来事が起こる。

ビリーを演じた少年は、華奢な身体つきで如何にも弱々しい。キャスティングにこだわる監督がピッタリの少年を見つけてきたのだろうが、演技をしているというより全てが自然体で溶け込んでいる。優しそうな話しぶりとは裏腹に厳しさのある監督の指示で、体罰シーンは実際に棒で叩いたらしく、その痛みに耐える姿もまた生々しい。

決して豊かではなく、希望のない生活の中にも一抹の光を見い出そうとするケン・ローチ監督の手法が、悲しいラストにも温かい気持ちに包まれた。
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