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バベットの晩餐会のすのレビュー・感想・評価

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
4.0
ああ〜良かった。すごく良かった。今自分の持てるどんな言葉を尽くしても、この作品の素晴らしさを伝えることは叶わない。伝えられたとしても近似値に過ぎない。それがもどかしくて、悔しくて、切なくて、苦しい。そう感じてしまうほどにこの映画のすべてが〜でお馴染みのわたしの心の琴線に触れましたシリーズに殿堂入り確定です。はい、おめでとう?いやありがとうございます(?)個人的にベンジャミン・バトンぶりの多幸感に包まれた作品でした。グルメ映画の偏愛枠だなこれは。

舞台は19世紀後半のデンマーク。海のそばの小さな村に暮らすふたりの姉妹(マーチーネ/フィリパ)と、訳あってそこに身を寄せるひとりのフランス人家政婦(バベット)による、あたたかくて、おいしい物語。

前半はこの姉妹の敬虔で慎ましい暮らしぶりとその宗教的背景がしめやかに、後半ではたっぷりの尺と画を使って晩餐会での食事の様子が描かれます。ふって湧いたまたとない幸運(というより金運)を、欲に溺れることなく、真心をもって感謝の意として還元するバベット。それも、晩餐会という食事のひとときを通して。これがまあ〜美しいフルコースで。特に目を引いたのが「ロシア産キャビアのドミドフ風」。えっなに?チョットヨクワカラナイ…ですよね、字面だけじゃ。なのでググるか観るかの二択です。わたしならとりあえずググります。だがしかし残念。肝はこの料理そのものというよりも、盛りつけのシーン。たぶんわたしここが一番好きかもしれん。他にも「ウズラのパイケース詰めソースペリグルディーヌ」(引用)なんかよくわからんけど絶対うまい「ラム酒入りババ」(引用)などの美食のフランス料理たちが次々と食卓へ並んでいきます。そしてここでひとつ補足を。実は晩餐会の少し前、あまりにも見慣れない食材たちが家に運ばれてくる様子を見かねた姉妹は、魔女に変なもの食わせられる〜!と言わんばかりというかもうほぼ言ってたけど、その旨を出席者たちに伝え、ある契りを交わします。それは命を戴くという行いへのせめてもの誠意として、晩餐会において食事を味わう話題を一切出さないというもの。味覚を失ったかのように過ごそうというものでした〜!いや、発想が、おもしろい(笑)そして諦めが早すぎる(笑)殺されかねないとまで疑いきってるのに食べないという選択肢はないところもちゃんと出席するところも代案のメニューをそれとなく伝えてみるとかいうアプローチを誰もしないところも結構ぶっ飛んでて笑っちゃった(笑)内心ビビり散らかしてるけど、黙って食おうと(笑)しかも讃美歌でいい感じに濁しはじめるしね(笑)しかしいざ晩餐会当日を迎えると、そう、先にあげた世にも美しいフランス料理たちが運ばれてくるわけです。もうね〜食事が進むにつれて瞬く間に相合が崩れていく出席者たちの表情が滑稽で仕方なくって。この厳かな空気にコメディを挟んでくるバランス感覚、どうなっとる?あっもしかしてコメディじゃなかったですか?いやそれはないよねあれは絶対に笑わせにきてたよ、というか実際ふつうに笑ったから(笑)まあ、そんな様子でね、次第にこの一夜の晩餐会を通して人々の心が柔らかく解れ、繋がっていく様子が描かれるわけです…(なんかいい感じにまとめた)

おかしい、もっと堅いトーンで書くつもりだったのにどっからこんなタッチになってしまったのか…。というわけで締めだけ少し真面目に。

元々暮らしや食といった人の営みを等身大に描いた作品が好みだということもあるんですが、それを差し引いてもこの映画の静寂さと品格、姉妹の所作の美しさや、余白の取り方、そのすべてが終始グレートーンで映し出されるこの作品を奥ゆかしく彩っていて、それらがすべて完璧に重なり合ってこの美しさが成立しているかような、そんな芸術的センスを感じる一作でした。8割美、2割コメディのアンバランスなグルメ映画です。腹ペコな日曜日に、ぜひご賞味あれ。
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