Jeffrey

シャンプー台のむこうにのJeffreyのレビュー・感想・評価

シャンプー台のむこうに(2000年製作の映画)
4.0
‪「シャンプー台のむこうに」‬

〜最初に一言、ジョシュ・ハートネット主演の中でも3本の指に入るほど好きな映画で、家族の再生を描きつつ、ユーモアな展開とシリアスなテーマが良い具合に混ざっており、見る者を最後まで楽しませてくれる。ヘアリストの方に毎度お勧めする1本である〜

本作はパディ・ブレスナックが2001年にイギリスで監督した映画で、この度DVDで久々に鑑賞したが面白い。‪本作は隠れた名作と言える知名度が低いJ.ハートネットと故A.リックマン主演のハートフルコメディで英国ヨークシャーの田舎町を舞台に美容師コンテストで優勝するべく崩壊寸前の家族が絆を取り戻すドタバタぶりや風光明媚な土地が美しい。美容師に好きな映画と聞くと本作の名があがる。‬やはりジョシュ・ハートネット主演、鮮やかな家族の再生の物語は個人的には好きだ。もともとハートネットと言う役者がすごく好きで、2000年代初頭は多くに出ていたため結構見れたが。やはり「パール・ハーバー」で主演のベン・アフレックを凌ぐ好演を見せて一躍大ブレイクの時を迎えた彼がその後に小さな作品にしか出なくなっていたのが非常に残念である。

やはり90年代ヒットした「フル・モンティ」でオスカー候補になったサイモン・ボーフォイの脚本を映画化した、ちょっと風変わりな家族の再生の物語は人種を選ばずに楽しめる。10年前のコンテスト出場をきっかけに家を出てしまった母。それと理髪店を営む父とその息子が自らの道を模索するまでの物語である。バラバラになった家族がどんどん再生していくヒューマンドラマが好きな方が絶対に楽しめると思う。重い作品ではなく、どちらかと言うとアバウトにユーモアたっぷりに描いた人間ドラマである。それに別エピソードでロミオとジュリエットと言えるほどライバルの親御さんの娘との恋愛話も面白い。とてもロマンスに満ちており、多彩なエピソードを配して展開する物語は、イギリス映画らしいエッジの利いたユーモアあふれるタッチである。その魅力を、いっそう輝かせているのが、英米混合チームのゴージャスなキャスティングだと思う。

そのヒロインを演じた女優レイチェルリー・クックって今でこそ見なくなったが、この時代は色々と出演していたね。個人的には「シーズ・オール・ザット」が好きだった。それこそハートネットはデビュー作のロドリゲス監督の「パラサイト」以来、調子は絶好調だった時期だ。それにもヨークシャー訛りを巧みに操るハートネットのキュートな素朴青年ぶりは、ファンを大いに魅力したんだと思う。父親役には「ハリーポッター」シリーズのスネイプ先生で世界中に顔を調べ知られたアラン・リックマンである。イギリス勢では、いずれ劣らぬ演技派スターが顔を揃えているのも映画の見所の1つだ。奥さん役のナターシャ・リチャードソンも強さと優しさをにじませる演技は最高であった。さらにシェリーの陽気な恋人サンドラには、オスカー候補にもなったレイチェル・グリフィスが扮しているのもよかった。

クライマックスの大変身ぶりであっと驚かせてくれる。あのクライマックスで頭に刺青を入れたいなとますます思った…。それにしても強烈だったのは、勝つためには手段を選ばないフィルの宿敵レイを演じたビル・ナイだろう。それとスーパーモデルのハイジ・クラムがピンクのキュービック・ヘアで仲間割れを招くコケティッシュな快演を見せてくれているのもよかった。この映画はとりあえず選手権シーン凝ったヘア・デザインで楽しませてくれている。確か映画「エリザベス」でオスカーを受賞した後にジェニー・シーコアが担当していたと思うし、衣装デザインも良かったし美術監督も素晴らしいのと音楽も良かった。全体的に監督や脚本を支える周りのスタッフの集結がいいなと思う。


さて、物語はヨークシャーのキースリー。気のいい住民たちが慎ましやかに暮らすこの街が、突如お祭り騒ぎの震源地になった。能天気な市長トニーの肝いりで、全英ヘアドレッサー選手権が開催されることになったのだ。この決定に色めきだったのは、父の理髪店で下働きをしながら、バイト先の葬儀場で死体相手にカットの練習に励んでいるブライアンだった。全英一の美容師を目指す彼にとって、選手権は絶好のチャンス。しかし、父のフィルは、息子と組んで出場しろと促す市長の言葉にも耳を貸そうとしなかった。フィルは、かつてこの選手権で2連覇を重ねた伝説のハサミ師だった。が、3連覇を目前に控えた時、妻のシェリーが、ヘアモデルのサンドラとともに家出。以来10年間、夢破れて理髪店のオヤジに甘んじる人生を送っているフィルは、シェリーとサンドラを決して許さず、近所に理容室のカット・アバーヴを構える2人と一言も言葉を交わそうとしなかった。

その冷戦状態が破られる日がやってくる。フィル親子の店を訪ねてきたシェリーが、サンドラも交えた家族で、選手権に出場しないかともちかけたのだ。実はシェリーは癌の再発を宣告されていた。命の期限を知った彼女は、死が近いと分かっていれば、それまでに問題を解決できると言う常連客のデイジーの言葉に励まされ、フィルとブライアンとの絆を取り戻そうとしていたのだ。しかし、事情を知らないフィルは、シェリーの提案を無視。ブライアンも黙って父の決定に従うしかなかった。その頃、キースリーの街には、イギリス中の腕利き美容師たちが続々と到着していた。モデルを務める娘のクリスティーナと、助手を連れ、ロンドンから参加したレイも、その1人。現在2連覇中の彼は、かつての宿敵フィルが達成しそこねた3連覇の記録を狙い、目的のためなら手段を選ばない作戦に出ようとしていた。

そんなレイの親子と前夜祭のパーティーで顔を合わせたブライアンは、幼なじみのクリスティーナの美しく成長した姿に一目惚れ。同時に、レイから浴びさせられた侮辱の言葉に闘志を掻き立てられ、シェリーのチームに加わって選手権に出場しようと決心する。その晩、ヘアカラーリスト志願のクリスティーナをバイト先の葬儀場に誘ったブライアンは、彼女に死体を練習台に使う方法を伝授。2人はすっかり良いムードになるが、途中で葬儀場から締め出されるハプニングが起こり、パンクなカラーに染め上げたバートン氏の遺体の髪をもとに戻せなくなってしまう。翌朝、解決方法が見つからないまま、選手権の会場に滑り込むブライアン。シェリーが客席から見守る中、1回戦の女性ヘアブロー部門に出場した彼は、サンドラをモデルにドライヤーを握るが、バートン氏の遺族に見つかって会場から逃げ出す羽目に。

そこに駆けつけたフィルが、ブライアンと激しく言い争うののを聞いたシェリーは、たまらずカツラをとって自分の病状告白する。この選手権は、私の最後の賭けなの。それでも頼みを聞いてくれないの?唖然とするフィルとブライアン。その頃、選手権の会場では、レイの策略によって、他の参加者たちのクシが溶け出す事態が発生していた。コンテストは1時中断され、その間にブライアンも会場へ。しかし、結果的にはレイがぶっちぎりで同部門の一位をモノにした。シェリーの真意を知り、レイの如何様に怒りをかき立てられたフィルは、チームに協力することを決意。ブライアンに男性フリースタイル部門の勝負のコツを教え、モデルの割り当てでインチキを図ったレイの作戦を妨害する。これが功を奏し、カットアバーヴのチームは4位に浮上した。

次は、シェリーが腕を振るうナイト・ヘア部屋部門。だが、ここで再びアクシデントが発生する。シェリーに死期が迫っていることを知らなかったのは自分だけだと気づいてショックを受けたサンドラが、モデルを追い返したあげく出て行ってしまったのだ。しかしシェリーはあきらめなかった。80歳のデイジーを病院から連れ出した彼女は、デイジーの白髪をバロックスタイルに結い上げ、この部門の優勝をさらった。残るは、ヘアからファッションまでのトータルなコンセプトを競い合うトータル・ルック部門だったが、レイに3点差まで詰め寄ったカット・アバーヴのチームが逆転優勝するには、なんとしてもモデルになるサンドラの協力が不可欠だった。目標は優勝じゃないの。私たち4人が家族になることよ。シェリーの言葉を背に受けたファイルは、実家に帰ったサンドラを訪ね、チームに戻ってくると願い出る。

シェリーには、僕たち2人が必要なんだ。その一言を聞いたサンドラの顔に、いつもの生き生きとした笑みが蘇る。そしていよいよ決戦の時がやってきた。ハサミのタトゥーが刻まれた裸足姿をたくましく、10年ぶりに選手権の会場に立つフィル。ブライアンとシェリーの応援を受け、カット台のサンドラと目を見交わした彼の手には、バリカンが握られていた…とがっつり説明するとこんな感じで、かつて全英一の美容師だった父と2人で理髪店を営む息子と同じ小さな街に住みながら10年前から交流を持つことをがなかった母。地元で開催される全英ヘアドレッサー選手権をきっかけに、壊れた家族の絆は、再び1つになれるのかを問うた傑作である。


やはり自分がこの作品が面白いな、画期的だなと思ううのは、やはり壊れた家族が和解していく過程をユニークなスタンスでヒューマンコメディにして作った点と、妻の恋人が男性ではなく女性と言うところだろう。それに和解には困難が伴うと言うことがこの映画1本から非常に伝わってくる。セクシャリティを超えた人間の絆として、家族を捉えている点には注目できるし、大いに困惑させられる周りや家族の面白み、ひねりを効かせた感じがたまらないのだ。夫婦そして家族と言う概念が、伝統的なイギリスでもこうやって変わっていったんだなと思うし、夫婦を男女のカップルと限定し、そのカップルの子供、あるいは親や兄弟姉妹を家族としてきた伝統的な形態のみが、家族ではないと言うことが明らかにされていく。この映画では男女を問わず、心地良い人間関係を共有できて、かつ愛情を立ち上げて身近なものを家族と捉えている節がうかがえるのではないだろうか。

それにしても男女で結婚して愛を誓った後に、女を連れて奥さんが家を出てしまうと言うのは夫からすると非常に複雑で気の毒な感じがする。かなりアラン・リックマン演じる美容師の心情がわかる。逆に、男だったらまだ深く考えずに憤慨できるが、相手が女性とくるとさらに落ち込んでしまうのは当然ではないだろうか。このような関係に慣れてない人だった場合は…と見てるこっちが色々と考えてしまう。その場合は時間とともに立ち直れると思うが、レズビアンだったとなると、夫であること以前に男性としての自分の存在を否定されるわけだから、立ち直る事はたやすくないだろう。映画評論家のきさらぎ尚氏はヘアドレッサー選手権で2連覇したチャンピオンのフィルが、10年間も歌を忘れたカナリア状態に甘んじている負け犬生活が説得力を持つと言っていた事を思い出す。

基本ベースには家族の再生が描かれているが、主人公の夫婦の息子と息子の恋人になるかもしれない娘(敵の親の娘)と言うライバルの関係にある中の図式を見ると、家同士の争いが子供の恋を妨害すると言う感じにも見せているのが非常に良い。いわば、物語を面白く語る要素(エピソード)が、作劇のセオリー通りにちりばめられているのだ。それは病気も然り、ヘア・ドレッサー選手権と言う物語の本流に対して、その流れを妨げるドラマが盛り込まれているのだ。個人的に感動するのは、やはり病気であの世に行ってしまう前に、心に刺さったトゲを抜いてから死んでいきたいと言う、決して夫を恨んで棄てたわけではないと言うシェリーの和解の気持ちが涙を誘う。また70年代のイギリス映画の多様な時代の復活と思わせられるほどの素晴らしい作品が90年代から連発している。

やはり「トレインスポッティング」の成功を皮切りに、元気に蘇ったイギリス映画は誰しも思うが、この作品はドタバタコメディを入れており、従来のイギリス映画の代名詞の1つであるテーマ炭坑街を描いた作品とはうってかわり、そこには貧困話が一切なく、あるのは家族ドラマと恋愛ドラマと親同士と子供の皮肉な恋愛関係だけなのだ。普遍性のある明確なテーマ、病気あり、恋ありのストーリーは誰しもが楽しめる映画だと思う。こういった映画はNetflix映画ではまず見かけない。このような作品を自分は待っている。非常に今回も面白く鑑賞できた。ところで今回の息子と娘役を演じたハートネットとレイチェルリー・クックが同じミネソタ州の高校に通っていたと言うのは巡り合わせなのだろうか。もっと言えばジョシュの作品で3本の指に入るほど好きな映画の「愛ここにありて」もミネソタを舞台にしていたなぁ。残念ながらVHSしかないけどこれは傑作(持っている)。グー・グー・ドールズの音楽が最高すぎる映画でもある。

ナターシャ・リチャードソンが英国名監督トニー・リチャードソンの娘であると言うことも忘れてはいけない。本作で印象的だったのは、クライマックスの美容師コンテストで、ネフェルティティが登場したり、羊をカラーリングしてしまうところだろう。それに、世界最速の美容師であり、英国とヨーロッパの元チャンピオンである人物などを参加させ、世界的な美容関連製品の会社である人がアドバイザーを担当し、専門家や製品を提供、俳優たちのトレーニングまでも行った徹底ぶりは最高である。まだ未見の方がオススメする。
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