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夜顔のnetfilmsのレビュー・感想・評価

夜顔(2006年製作の映画)
4.1
 初老の紳士アンリ(ミシェル・ピコリ)は、パリのコンサート会場で、はるか昔の知人を発見する。それは、アンリのかつての友人の妻セリジだったが、彼女はアンリを避けるように足早にその場を立ち去ってしまう。しかしアンリは諦めることなく彼女の居場所を探り出す。そして、ついに彼女をつかまえると、強引にディナーの約束を取り付けるが。67年のブニュエルの『昼顔』から40年、年老いたユッソンとセリジの偶然の再会を描いた続編。40年の時の流れの残酷さを思わずにはいられない。冒頭、オーケストラの演奏を1人で鑑賞にやってきたピコリはたまたま目をやった近くの席に偶然、セリジの姿を見つける。演奏に飽きてふと目を横にずらした時に発見する。ここでのピコリの笑みとも戸惑いともつかない表情が実に良い。しかしそんなピコリの目線を感じたのか、すぐにオジエもピコリの姿に気づくのだが、彼女は少しの喜びも見せないまま、逃げるようにコンサート・ホールを出る。あてのないまま夜の街を散歩するピコリは、あるBARから偶然出て来たセリジの姿を見つける。どこにでもあるようなごく普通のBAR、若い娼婦と年老いた娼婦の2人が、ピコリの座るカウンターを見つめている。

 BARのマスターとピコリとのやりとりが実に軽妙でテンポが良い。そしてそんな2人の話を少し離れたテーブル席で耳をそばだてて聞く2人の娼婦。若き日のセリジへの熱い思いを、Wのウイスキーをちびちび舐めながら目を細めて話すピコリの眼差しは、少しも歳を感じさせない。物言わぬ騎士の像を見ながら思案に暮れるのは、これまでもオリヴェイラの映画で繰り返し描かれて来た重要なモチーフである。夜景をロングで撮影した風景ショットの素晴らしさは、『家路』の場面転換ショットを彷彿とさせ、懐かしい気持ちでいっぱいになる。やがてピコリの会いたいという執念が実り、やや強引な形ではあるが、セリジは夕食の誘いを承諾する。上階から階下を眺めるピコリは、従業員にシャンパンを指示し、2人の40年ぶりの再会は素晴らしいものになるはずだった。ただ40年という時の流れは残酷で、男と女にはどうしようもない温度差がある。従業員がいるうちは、2人の顔を交互に切り返すのだが、やがて2人きりになった時に、オリヴェイラは自然と2人の姿を横からカメラ据え置きでじっくりと長回しで捉える。オジエがドアを開けた時、どういうわけかこの場所に似つかわしくない動物が登場する。人を驚かすのが大好きなオリヴェイラらしいユーモアであり、詩情溢れる最高のラストである。
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