mat9215

シークレット・サンシャインのmat9215のレビュー・感想・評価

3.5
チョン・ドヨンは事件が起きる前から何かしでかしそうな不穏な表情を浮かべている。子どもが家の中に隠れて見つからず泣き声を上げるところから始まって、ソ・ガンホが勝手に壁に下げた偽のピアノ経歴書をそのままにしていたり、亡き夫が不貞を働いていたにも関わらず夫の生地に移住してきたことに心の軋みが垣間見える。そして、事件発生後は、夫の生命保険金の残金がほとんど残っていないことや、資金の当てがないのに不動産投資を下見していたことが、犯人とのやりとりで明かになる。身代金の袋をかさ増しするために紙束を作っていたり、クルマで人を轢きそうになったり、チョン・ドヨンの動揺ぶりは子どもを誘拐された母親としても度が過ぎている。その後、子どもを失った悲しみ、束の間の救済とその喪失、そして狂気といったジェットコースターのような激しい振れ幅は、巻頭の不穏な表情が予見させていた。こうした何かしでかそうな雰囲気は、永作博美を思い出したりする。

一方のソ・ガンホ。チョン・ドヨンに「俗物」と面と向かって言われても動じず、その後、何度冷たくあしらわれてもめげない。かといって、無垢などではさらさらなく、街の仲間たちと一緒に女の子にセクハラジョークをカマしたりする。子どもが誘拐されて助けを求めに向かったとき、ソ・ガンホが事務所の中でカラオケを朗々と歌っているのを見て、チョン・ドヨンが絶望した表情を浮かべて去って行くなんて場面もよかった。

チョン・ドヨンが狂気に陥った最終章はちょっと長い。

なお、夫に先立たれた男の子持ちシングルマザーで、夫は他の女と情を交わしていたという設定は、是枝裕和が『怪物』で採用してる。
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