AZ

シークレット・サンシャインのAZのレビュー・感想・評価

4.0
見たのは高校生か大学生のころ。十何年も前なので、ほとんど覚えてないと思い見てみたが、全体の流れだったり、ここはこういうことが起きるといった断片的な部分は覚えていた。息子の死によって神に縋った女性が、結局心の救済に至ることはなく、苦しみ続ける。神の存在とその救済のジレンマ。神を否定するような作品だが、ひたすら彼女は神に対して怒りを表現しているし、ラストシーンからも神の存在を強く感じさせる皮肉な作品だった。

----------

夫の死後、息子と共に夫の故郷で暮らすことにしたシネが、息子の誘拐、そして殺害を経験した後、敬遠していた教会へ向かう。

密陽という慣れない土地、陰口を言われる中、それでもそのコミュニティに馴染もうとするシネ。それは全て息子のためだろう。お金を持っているふりをしたのも、自分に注目を浴びさせるため。しかしそれが仇になる。

藁にもすがる思いで信仰していくシネ。一度平穏を得るが、どこかでまだ取り払えないものがある。犯人である塾長のパクの娘が虐められている姿を見て無視するシネ。

「敵を許し、敵を愛せ」。

この言葉を実践するためシネはパクの元へ向かう。ここで信仰のジレンマが発生する。信仰心があれば誰でも許されてしまうのか。自分が許そうとした相手はすでに神に許されていた。ではどう彼を許せばいいのだろう。シネの心の行き場がどこにも無くなった瞬間である。許すことで、全てを受け入れようとしていたのに。

そこから、神に対する不信感やその存在を否定するような行為に至るわけだが、皮肉にもそれら全てが神の存在を逆説的に肯定しているだった。

そんな彼女にどこまでも寄り添ってあげるジョンチャン。最初は鬱陶しく軽い男という印象だったが、辛抱強く彼女のことを思う姿で、少なからずシネは救われていたのではないだろうか。そしてこれからも彼女のそばに寄り添う続けるのだと思う。

----------

息子の死後から特にチョン・ドヨンの演技が輝いていた。輝いていたと言う表現が正しいのかわからないが、息子を失い、さらに神とは何なのかを嘆くシネの苦しみが、静かにひしひしと伝わってくる。

シネが好きという理由だけで適当なことばかりするジョンチャンの存在が良かった。神を信じてもないのに信仰するふりをし、そして物事の上部だけを見て話をする。だが、その純粋さが少しずつ安心感のあるものになっていく。意外と彼が本質的な存在だったかも。ふりをするだけでも救われるのではと。ソン・ガンホやっぱり良い。
AZ

AZ