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犬神家の一族のsowhatのネタバレレビュー・内容・結末

犬神家の一族(1976年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【原作に込められた胸焼けしそうな気色悪さを見事に映像化!】

菊人形の生首とか、湖面に突き出た下半身とか、佐清マスクとか、そんなビジュアル面が取り上げられることが多い本作ですが、私の感じる気色悪ポイントは、二人の異常性愛の男たちにあります。

まず、一人目が、那須神社神官野々宮大弐。
出自不明の17歳の放浪児を拾い、養育します。
その時大弐は42歳、その妻晴世22歳。
大弐は男色家であり、妻は結婚後も処女のまま。
大弐は拾った17歳の美少年を慰み者にし、彼の直腸に大量の精液を注ぎ込みます。
つぎに少年は大弐の妻、晴世に精液を注ぎ込みます。
そうして生まれた二人の子が祝子、さらにその子が珠世。
もうなんとも気色の悪い設定です。
身を清めるべき神官が汚れまくっているというのが、さらに異常さを際立たせます。
まるでカトリック教会の聖職者による子供たちへの性的虐待を先取りしたかのような気色悪設定です。

少年犬神佐兵衛はその後製薬会社を興し、一代で巨万の富を蓄えます。
生涯独身を貫いた彼は、大弐に注ぎ込まれた精液を今度は4人の愛人たちに注ぎ込み、それぞれに子供を産ませます。
結果、腹違いの5人の子供(祝子、松子、竹子、梅子、青沼静馬)と5人の孫(佐清、佐武、小夜子、佐智、珠世)を遺します。
劇中で、小夜子はいとこである佐智の子を孕っていることが判明します。
日本では従兄弟同士の結婚は法的に認められてはいますが、血縁的には近いもの同士です。
さらに佐兵衛の遺言は、遺産を相続したいなら孫同士で結婚すべし、というものでした。
広くて、暗くて、閉鎖的な「犬神御殿」の中で、血がますます濃くなっていきます。
佐兵衛の怨念に操られるように、松子は俗物である佐武、佐智を排除しようと血の惨劇を繰り広げます。
結果的には佐兵衛の目論見通り、遺産は分割を免れ、すべて珠世&佐清の二人に引き継がれることに。
近親者同士のドロドロの愛欲劇、そこが横溝正史が原作に仕込んだ、生理的嫌悪感を催させる素敵な気色悪ポイントです。
本作のフォーカスは愛欲劇ではなく血の惨劇にありますので、お子様でも安心?
ちなみに宿の主人役でカメオ出演しています。

本作は原作の気色悪ポイントを見事に映像化してくれています。
戦争の傷が癒えない、敗戦直後の暗い世相を伺わせる町並み。
豪華であっても暗く息苦しい日本家屋。
あの空気感は今の日本映画ではとても出せないと思います。
1976年当時は、まだ戦後の空気が残る建築物が残っていたのでしょう。

あと、キャスティングと俳優の演技もすごい。
特に小沢栄太郎(古館恭三弁護士)と加藤武(橘警察署長)の二人の脇役力。
胸焼けしそうな気色悪さを解毒してくれる石坂浩二の金田一。

監督の演出もすごい。
死期の迫った佐兵衛の死戦期呼吸の音で始まる静かなオープニングも最高です。

大野雄二の音楽もいい。山田節子の琴の音もいい。
今見ても楽しめる一本です。

松子の最後の言葉、「佐清、珠世さんを、父の怨念から、解いておやり」とはどんな意味だったのでしょうか。
孫同士で結婚して遺産も事業も引き継ぐわけですから、この二人はこれからも佐兵衛ワールドから逃げることはできないはずですが…。
それどころか、この二人の間に生まれてくる子供は、もしかして佐兵衛の生まれ変わりなんじゃ…。
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