Ricola

美しき小さな浜辺のRicolaのレビュー・感想・評価

美しき小さな浜辺(1948年製作の映画)
3.7
社会問題が主題の作品ではあるが、ファンタジーな演出がロマンティックかつ哀愁を際立てている。
さらに悲劇の主人公を演じたジェラール・フィリップの美しさも相まった作品だった。


窓から外の景色を眺める主人公。
彼の目線の先にいる井戸から水を汲む男の上には、屋外のはずなのにぶら下がっている電球が見える。
過去の自分が、幻想として自分の目の前に浮かび上がるのだ。彼が過去に囚われたままであることがよくわかる。
室内に戻った彼は、ベッドに顔を埋めて泣き出す。キーキーと耳障りのする音を立てる戸の動きが、影と光の配分を動かす。
その光が闇の中にいる彼に少しチラチラとかかるように動くのだ。

作中で雨はほぼ何時でも降っている。
雨はこの作品の特徴またはモチーフと言っても過言ではないだろう。
雨単体に限らず、光とのコンビネーションによってその存在感が強く認識される。
夜でも昼でも、雨が降っているときの屋外のショットでは、照明や太陽の光が部分的に差し込むことで、影と光の境目のコントラストが少しぼやける。
さらに強い風が吹く際には、風が雨を平行方向に動かすことで、雨風が形を成して目に見えるものになる。
まるで雨が生き物かのように、または繊細な人間の心かのように、しなやかに緩やかに変形するのだ。

ストーリー構造の特性もあり、サスペンス仕立てになっているのも興味深い。
主人公がこの宿にやってきた理由や彼の過去や心の傷などが、彼の態度や周囲の人々との関わり、そして思い出の歌を通じてだんだんと明らかになっていく。

憂いや哀しみだけに偏らず、ファンタジーな演出が相まってロマンティックさを感じる。それはジェラール・フィリップの色気と哀愁、そして雨や光と影の見事な演出が主に関係しているだろう。
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