ジミーT

人間革命のジミーTのレビュー・感想・評価

人間革命(1973年製作の映画)
5.0
「ノストラダムスの大予言」「砂の器」へと続く「丹波哲郎演説三部作」の第一弾にして最高峰です。とにかく主演の丹波哲郎が物凄い。獄中での悟達から後半の説法大演説はもはや宗教家の「人間革命」を突き抜けて、「丹波哲郎革命」としか言い様のない圧倒的な魅力に溢れています。

このように主演俳優の神がかり的怪演(注1)と異様なカリスマ性が映画を制圧し、おそらくは製作者さえ意図しなかったであろう効果を生み出してしまうというような例は稀有であり、他には「燃えよ!ドラゴン」くらいしか思いつきません。

丹波哲郎氏自身もその著書(注2)で、「主人公が向こうからやってきて自分をコントロールしているよう」「何者かが乗り移ったよう」だったと述べ、「俺の代表作に挙げられるのは、やはり舛田利雄監督の『人間革命』に尽きる。俺は宗教には全く無知だったが、役者としてみた場合には、ほとんど完璧だ。」とまで言いきっています。

しかもこの映画は一宗教団体の自主制作ではない。製作・田中友幸、脚本・橋本忍、特撮・中野昭慶、音楽・伊福部昭、監督・舛田利雄というおなじみの東宝特撮超大作。出演陣も、知らない俳優はいないんじゃないかと思われるほどのオールスターでした。このスケール感と互角に渡り合い、というより凌駕してしまい、映画に製作意図とは何か別の価値を与えてしまったような丹波哲郎はやはり凄すぎたという他ありません。

更にこの映画についてはもう一点、驚くべきことがあったのです。

この映画は1973年10月に東宝映画でロードショー公開されました。当時、超大作映画の新聞広告には映画評論家をはじめとして著名人のコメントが載っていたりしたものですが、この映画のコメントのひとつに「獄中で悟りを開くシーンは上質のSFである。」というような評がありました。どなたが書かれたものかは忘れてしまいましたが、これには驚いた。
当時、SFというのは一段も二段も低く見られており、私の知人たちの中でもSFというといかにも嫌そうな顔で白眼視する奴もいたくらいです。
そんな時代に全国紙の大広告でSFという単語を肯定的な称賛の言葉として使っていたのです。こんなことはおそらく唯一無二の例でした。(注3)
以来私はこのコメントが忘れられず、上質なSF「人間革命」を観たいと思って49年。忘れた頃にようやく観た次第です。
なるほど、獄中で悟達に至る展開は時系列シャッフルのミステリ的手法を大胆に使ったり、34個の「〜に非ず」を満たす「仏」の正体に迫ったり、獄窓の向こうに巨大な太陽が昇ったりする特殊効果もあって極めて上質なSFと言えるかもしれませんね。その評論家の方はよくぞ喝破してくれたものと思います。

いずれにせよ丹波哲郎氏と強烈な映画体験にスコア5.0です。

注1
「神がかり」ではなく「仏がかり」というべきでしょうか。

注2
「丹波哲郎の好きなヤツ嫌いなヤツ」
1999年5月31日
株式会社キネマ旬報社

注3
1973年、同年「日本沈没」がスーパーベストセラーになっており、当時の光文社カッパノベルス版の「日本沈没」の肩書きは「SF長編小説・書下ろし」となっています。SFなどという単語を肩書きにした小説が国民的ベストセラーになるなど、前代未聞の出来事でした。「人間革命」大ヒットの直後に映画「日本沈没」もロードショー公開され、こちらも大ヒット。「燃えよ!ドラゴン」も同時期に公開されて大旋風。トドメに「ノストラダムスの大予言」が大ベストセラーに。
ヘンな年だったんです。

追伸1
これは映画の性質上、レビューを残すか迷ったのですが、強烈な印象を受けたわけであり、あくまでかつての東宝特撮超大作の一本でもありますので、レビューを書きました。

追伸2
私はこの宗教の信者でもなければ構成員でもないこと、附記させてください。
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