ほーりー

モスラのほーりーのレビュー・感想・評価

モスラ(1961年製作の映画)
4.4
今度のNHK朝の連続テレビ小説『エール』は昭和期に活躍した作曲家・古関裕而がモデルとなっている。

軍歌、流行歌、舞台、ラジオ、映画と八面六臂で活躍した古関裕而先生だが、映画における代表作は知名度からして何といっても『モスラ』に尽きると思う。

ということで今回は東宝特撮の白眉『モスラ』をチョイス。

『モスラ』も小さい頃からビデオで親しんだ一本である。

特に東宝特撮の中でも稀代の悪党であるクラーク・ネルソン(演:ジェリー伊藤)が強烈だった。

「奇蹟ハ昔ノコトデショウカ?ソシテ、神秘ハ言葉ダケノモノデショウカ?……イイエ!奇蹟ハ今デモアリマス。神秘モ夢デハアリマセン」

興行師ネルソンのケレン味たっぷりの口上が子供心に印象的だった。
ちなみに後年、ジェリー伊藤の本名がジェラルド・イトウ・タメキチと知ったときはちょっとショックだった思い出がある😅

Wikiによれば「単なる怪獣が暴れる映画ではなく、女性でも楽しめるような映画を」という森岩雄のアイデアから製作されたというが、製作陣は単に女性向けだけに作った作品ではないように思える。

あの名作『ゴジラ』ですら大ヒットした時も批評家からはゲテモノとして扱われるなど、怪獣映画が正統派から白い目で見られるのはいつの世も常である。

そんな蔑視に対して怪獣映画でも芸術的に素晴らしいものは作れるんだというスタッフたちの気概がこの作品から感じられる。

まず戦後を代表する純文学作家である中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の三人に依頼して原作を書かせている点で、やる気の度合いが他の特撮映画と大きく違う。

また作曲家をいつもの伊福部昭ではなく前述の古関裕而に担当させているのも大きい。

俳優陣に目を移せば、主演に怪獣映画初登場のフランキー堺と香川京子をわざわざ起用している点も本作の特徴だと思う。

既にこの時フランキーは『幕末太陽傳』と『私は貝になりたい』で一世を風靡していて、香川も黒澤・小津・溝口・成瀬といった巨匠に重宝されていた頃である。

さらにだめ押しとして二枚目スターである上原謙を起用している。前年の『宇宙大戦争』では既に池部良が出ているが、純粋な怪獣映画でこれほどの大御所が出るというのは当時稀有なことだったと思う。

なお志村喬も当然大御所なのだが『ゴジラ』以降、特撮映画のお馴染みの顔といった感がある。

あと言わずもがな、小美人役に当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったザ・ピーナッツを起用しているのも大きい。この後も色々な人が小美人を演じているがこの役に関してはザ・ピーナッツ以外あり得ないと思う。

さて肝心のストーリーと特撮だが、ストーリーが南方の探検隊が持ち帰ったものが大きな災いを呼ぶというのは米映画『キング・コング』の亜種といった感がある。

ただ興行師が連れ帰ったものを怪獣が取り戻しにやってくるというアイデアは同年にイギリスで作られた『怪獣ゴルゴ』と同じく斬新で、ゴジラやラドンとは一線を画す"単なる暴れまわるだけの怪獣ではない"モスラを作ったのは成功だったと思う。

また多くの人が指摘している通り、普通だったら忌み嫌われる蛾をモチーフにした守護神というのも昔から養蚕信仰のあった日本ならではの発想だと思う。

特撮に関しても、これも色々なレビューで書かれている通り、ニューカークシティのシーンになって急にミニチュアの粗さが目立つ。

だが、それまでの第三ダム決壊シーンや都心に向かってモスラが驀進する際のミニチュアセットの細かさは驚愕のハイクオリティ。

原子熱線砲でモスラの繭を焼き払うシーンも滅茶苦茶カッコよく、本多監督の演出+古関裕而のスコアも相まって荘厳な攻撃シーンだった。

■映画 DATA==========================
監督:本多猪四郎(本編)/円谷英二(特撮)
脚本:関沢新一
製作:田中友幸
音楽:古関裕而
撮影:小泉一(本編)/有川貞昌(特撮)
公開:1961年7月30日(日)
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