ベビーパウダー山崎

自分の穴の中でのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

自分の穴の中で(1955年製作の映画)
3.5
その家の主でもあった父が亡くなり、中心が空洞のまま残された子ども(兄妹)と継母、図々しい成功者と頼りないが誠実な男。この五人の愛情や関係性がずたずたに切り裂かれたまま修復されることなしにそれぞれ散り散りばらばらとなり呆然と終わる、目指すマトが見えづらい物語で撮るには難しい映画。
一度開いた穴は埋まることなしに広がり続ける。悪意や憎しみからの崩壊ならまだ納得できるが、誰もがただ自分の道を正直に生きた結果からの滅びで、それがまたやりきれない。女性の肉体しか求めていない三國連太郎も妻に裏切られた過去があり、その軽薄な行動を責めることも出来ない。戦後にごみ溜でしかなくなった防空壕で寝ている宇野重吉から始まる映画、この冒頭だけで満点。警官に身元を聞かれた際にタバコに火をつけながらボソボソと答える宇野重吉が素晴らしい。寝たきりの兄に金子信雄、カッコつけて「自由と権利を認めるのが愛情だと思う」とか言っておきながら逃げられた元妻を忘れられずに、病弱な身体で這いずり回り元妻を犯そうとする終盤はホラー。内では誰よりも生(性)に執着しているのがそれはそれで哀しく虚しい。
深くて暗い穴にみな飲み込まれ、誰もいなくなった家で遺品を燃やす妹の北原三枝。血の繋がりがあろうとなかろうと人と人は分かり合えない。個と断絶、不幸にも壊れていく知らない他人の家族を覗き見してしまったような厭な「映画」を好む人にはオススメ。