青山

ソナチネの青山のレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
4.0

ヤクザ稼業に嫌気が差している北嶋組幹部の村川は、友好団体の中松組の応援のために子分らと沖縄へ向かう。しかし村川らが来たことにより敵対する阿南組を刺激してしまい抗争は激化。生き延びた村川と数人の弟分らは海辺の廃屋に隠れたまま時間を持て余し......。


妻が『龍が如く』にハマったのに便乗して「ヤクザといえばソナチネを観なよ」と一緒に観ました。私は2回目。しかし素晴らしい映画は2回観たって素晴らしい!

『3-4×10月』の沖縄パートに味をしめた北野監督がほぼ全編沖縄で撮った、という経緯があるらしく、監督のバイク事故の直前の作品という作品街の情報も「死の誘惑」という本作のテーマとどうしても重ねて考えてしまって重みが増して感じられます。

とはいえそれは置いといてもすごい映画。

北野監督自身が演じる、ヤクザをやめたいヤクザの村川の弛緩と緊張のギャップがそのまま作品全体の空気感を作り上げています。
序盤の東京にいるパートから、クレーンで男を吊るして夜の海に沈めたり出したりするシーンが冷酷でありつつ無邪気な子供の遊びのようにも見えるように撮られていて怖く、そうやって他人の死を見つめる村川の目が印象的でした。
カメラの動きが少なく、人物もあんま動かずに静止画みたいなところから急に銃撃戦が始まったりするあたりの静と動のダイナミックさ。とはいえ「動」の場面でも棒立ちで淡々と射撃して無言で死んでったりするのがリアルではないけど不思議と生々しさがあって凄え。

そんな殺伐を土台にしつつ、沖縄パートでは廃屋に隠れている間、ただ隠れていなきゃいけなくてすることもないヤクザのおっさんたちが踊りの練習をしたり相撲や花火をやったり落とし穴を作ったりする様はまんま小学生の夏休みそのもので、そのノスタルジーと微笑ましさが愛おしい。この辺は特に短いシークエンスをショートコントみたいに繋いであってユーモア全開。
でもこの後みんな死ぬんだろうなという不穏さが通奏低音として鳴り続けていて、夏の沖縄の海のあまりの美しさが怖くなります。もはやこの辺のシーンが全部走馬灯であるかのような雰囲気と言いますか。

そして、ヒロイン的な女の子に対して「死ぬのが怖すぎると死にたくなっちゃうんだよ」と言う時の、その冗談めかした様子が逆にめちゃくちゃ本気を感じさせてぞわぞわするし、あまりに有名なロシアンルーレットのシーンとかもぞわぞわする。俳優としての北野武の良さもこの辺のシーンの表情なんかに詰まってて、全然他の作品とか観てないけどこれ最高傑作と言われるのも分かるなぁという気がしちゃいます。

しかし、これが事故直前の作品で、事故後に『HANA-BI』撮ってるのもほんと凄くて、本作にも花火するシーン出てくるけど対になったというか、本作へのアンサーが『HANA-BI』みたいな感覚があってあっちもまた観たくなってしまった......(でもタケシズとか監督バンザイとかの評判悪いやつも観てみたい......)。
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