むらむら

NEXT -ネクスト-のむらむらのレビュー・感想・評価

NEXT -ネクスト-(2007年製作の映画)
5.0
最初に書いておくけど、この★5は、「ニコラス・ケイジの穴」があったら後先考えずに飛び込んでしまうくらいニコラス・ケイジが好き! って特殊な人向けの評価。それ以外の人には勧めません。

以下、基本的に批判しか書いてないので、そのつもりで読んでください。

「2分後の未来が見える」マジシャン・クリス(ニコラス・ケイジ)が、核兵器を運び込んでLAに潜伏したテロリストの捜索のため、FBI捜査官(ジュリアン・ムーア)に協力することになる、という内容。

先週、同様に「2分後の未来が予測できる」という設定の「ドロステのはてで僕ら」を鑑賞したばかりなので、近しい作品は無いかな?と思ってたどり着いたのが、この作品。

設定自体は面白そうなんだけど、実際観てみると「なんじゃこれ?」って珍作だった。

この設定は、フィリップ・K・ディックの短編「ゴールデン・マン」が原作らしい。ただし、数分後の未来が予測できる、という点以外、共通点は何もない。IMDBによると、「ニコラス・ケイジが、最初から最後まで、金色のジャンパーを羽織っている」のが原作へのリスペクトらしい。そんなリスペクト、いらんやろ……。

そしてこの作品、脚本が完全に破綻している。

「自分の身の回りにある、2分後の未来しか見えない」って設定がミソなんだから、観客は

「2分後の未来しか見えないって制限の中で、どうやってテロリストを発見するのか!?」

ってサスペンスに期待するよね?

なのにいきなり、

「夢に出てくる美女(ジェシカ・ビール)の未来だったら、どんなに先でも見えちゃう」

って抜け道を作っちゃうわけ。

この時点でルール違反やろ。

しかも、テロリスト捜索で、何がキーになるかというと、この「抜け道」能力。

そんなんズルい、って思いますよね!? そんな解決、観客にとって何もカタルシスないやん!

この作品、核兵器が運び込まれるという設定が「博士の異常な愛情」に近いからなのか、途中、ニコラス・ケイジを椅子に縛り付けて、目を無理やり開けたままニュース映像を観させられる……という、完全に同じキューブリックの「時計じかけのオレンジ」オマージュのシーンがある。

FBI捜査官は「2分後のニュースを観続けて、何か動きがあったら教えるのよ!」って、大げさにも、こんな装置にニコラス・ケイジを縛り付けている。

でもさ、この装置に何の意味があるの? せいぜい2分後しか分からないのに、2分後に、例えば核兵器が爆発した、ってニュースが流れても、それをニコラス・ケイジがFBI捜査官に説明してると1分くらい経っちゃうよね!? 残り1分で、FBIに何が出来るの!? それくらい頭が悪い。

っていうか、ニコラス・ケイジが単に椅子に縛り付けられてポタポタ目薬垂らされるのを見せたいだけじゃん!?

全編、こんな調子で、基本的に頭の悪い展開ばかり。俺だったら、脚本家をこの装置に縛り付けて目をこじ開けさせて、「ドロステのはてで僕ら」を百万回見せてやりたい。そしたら脚本家も

「そうだ、FBI捜査官に『ドロステ』のオザワとカフェのマスターを投入しよう」

くらい思いついてくれるかもしれない。というか、この無能なFBIの連中より、オザワ一人の方が、よっぽど頼りになるわ。

さらに、終盤のテロリストの対決シーンなんて、「2分後の未来が見える」もんだから、完全にニコラス・ケイジのターンになっている。

弾は避けるわ、テロリストの居場所は見つけるわ、爆弾は解除するわ……ニコラス・ケイジがチートすぎて、サスペンスとして全く成り立ってない。

分かりづらい例えかもしれないけど、ニコラス・ケイジ一人で「300」の主演やって、1vs10000人のペルシャ軍相手の無双してるみたいな感じ、って言えば伝わりますかね? ニコラス・ケイジ、「アベンジャーズ」に入りたかったの? って思っちゃった。

こんなに観客として緊張感がないのに、ニコラス・ケイジだけドヤ顔で、

「あー、こっちが正解ですわ」

「あっちに、狙撃手おるでー」

みたいな感じでスイスイ解いていくので、めっちゃイライラする。

ニコラス・ケイジも映画の中で

「小さい頃から、周りには理解されなかった」

つってるけど、俺だって、こんな奴、友達になりたくないわ。

しかも、このテロリストの対決シーンに至っては、もはや2分後の未来が「見える」って設定は無視され、「理想的な2分後の未来を選択できる」って、都合よく解釈されてて、それがさらに無双感を増してる始末。

なんかニコラス・ケイジはEXILEのダンスみたいに分裂してるし、「マルコビッチの穴」ばりのニコラス・ケイジの増殖シーンもあったりする。

ここに至って、ニコラス・ケイジがゴキブリにしか見えなくなってしまうのは、俺だけじゃないのでは?

ラストのオチも(ちょっとネタバレだけど)、ジャンプの打ち切りマンガの「俺たちの冒険はこれからだ!」みたいな感じで、ズッコけさせられた。

要するに、めっちゃチートな能力を設定した上に、脚本がニコラス・ケイジに都合よく作られているため、全くサスペンスとして成り立ってない作品。脚本、まさかニコラス・ケイジが偽名で書いてないよね!?

これだったらよっぽど、ニコラス・ケイジの生え際を90分、延々と映し続けてくれた作品の方がハラハラすると思う。

とはいえ、なぜか共演者は異常に豪華。例えばFBI捜査官役のジュリアン・ムーア。このトンデモ設定の作品で、よくぞ真面目に熱演してくれたと拍手を送りたい。いやマジで、「笑ってはいけないニコラス・ケイジ」としか思えないこの作品で共演したら、俺、最初のシーンで吹き出してしまって、お仕置きされる自信ある。ジュリアン・ムーア、さすがプロの仕事!

「刑事コロンボ」のピーター・フォークが、ニコラス・ケイジの同居人として出演しているのもポイント。ピーター・フォークは、この作品が、日本公開の映画としては最後の出演作になってしまった。

え……? 刑事コロンボ……??

まさか……まさかニコラス・「ケイジ」の主演作だから「刑事」コロンボのピーター・フォークの遺作としては相応しいと予知して配役してないよね!? だとするとそのキャスティングした超能力者だけは凄いわ……。 

テロリストのボスは「タクシー運転手 約束は海を越えて」のトーマス・クレッチマンが頑張って演じている。なんで核兵器をLAに持ち込んだのかサッパリ分からないテロリストのボス、という難しいというか薄っぺらい役柄なので、どう演技しても、単なるイキリ悪党にしか見えないのが残念。これまた、トーマス・クレッチマンの無駄遣い。

俺が脚本家なら、せめて、トーマス・クレッチマンが「実は、3分後が見える予知能力の持ち主」って設定を与えてあげて、なぜ核兵器を持ち込むのか、とか語らせてあげて、最後、ジョジョのスタンドバトルみたいな頭脳戦に持ち込むんだけどなー。

というわけで、同じ時間あったら「ドロステ」を2回鑑賞した方が良いという気もするけど、途中に書いたように「笑ってはいけないニコラス・ケイジ」を観たい、という方にだけにはオススメの作品です……。
むらむら

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