湯っ子

春との旅の湯っ子のネタバレレビュー・内容・結末

春との旅(2009年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

偏屈爺さんと孫娘のロードムービー。
お勧めしてもらって、他ではなかなか見かけない組み合わせに興味を引かれた。
なんだけど、う〜ん…。

「37セカンズ」の時もそうだったけど、私はどうしても、自分の仕事で知っている世界について違和感を感じるとノれないらしい。
私はブランク含めて15年介護の仕事をしていて、色んなお爺さんを見ている。
仲代達也は偉大な役者さんだ。だから、彼が思う「脚が不自由なお爺さん」を完璧に演じていると思う。
だけどね、なんで歩いてる時だけ片麻痺(脳疾患の後遺症で、右か左どちらか片側に麻痺が残る状態)みたいになって、座ると両手普通に動いてるのって思っちゃった。
そのへん、ちょっと勉強不足かなって。
これは制作側も、脚が悪い老人を描く時に、どんな疾患で脚が悪いのかをちゃんと設定してないからだろうと思う。
せっかく、これだけ贅沢な役者さんを揃えて映画撮るんだからさあ…

そして、最初に出てきた大滝秀治!私は彼の映画はあまり観たことないけど、岸部一徳と一緒に出ていたキンチョーのCMが大好きなので、テンション上がった。
仲代演じる弟の申し入れを突っぱねたあと、実はホームに入るんだ…って告白をした時、私もうるっとしたけど、そのあとなんだかものすごい悲哀に満ちた演出になっていて、あ〜これは制作側が、ホームに入る=入れられる=捨てられる、姥捨山のイメージで描いているなと思った。

春ちゃんが携帯電話を持っておらず、公衆電話を使っているので、時代設定が少し前なのかもしれないけど、公開は10年前。それにしたって少し意識が古いと思った。
色んなホームがあるとは思うけど、20年前に私が勤めていたホームでは、お年寄りはみんな「住めば都」って言ってそれなりに楽しく暮らしていたよ。
それこそ、私もその頃、春ちゃんみたいに孫くらいの年齢だったので、かわいがってもらったし、一緒に笑ったことがたくさんある。
今は在宅介護の人々を対象にした仕事に就いているけど、自宅にいるのがベストではないな、と思うお年寄りもたくさんいる。

淡島千景演じるお姉さんの言ってることが一番納得できて、あの通りに結末を迎えたら、私はとても好きな映画になったと思う。
春は東京へ行き、おじいちゃんは地元でひとりで暮らす。きちんとした福祉を受けたら、全然ひとりで暮らせるレベルだもん。春とは電話したり手紙書いたり、お休みに帰ってくれば良いじゃないか。
だから、蕎麦屋で春がずっと一緒と言った言葉もイマイチ響かない。
ここは、描き手も、そうは言っても春も恋をしたり結婚したり、ずっと一緒というわけにはいかないことはわかっているらしい。
そこを描くのが辛かったから、ああいった着地にしたんじゃないか。
だって、春の言う通り一緒に暮らしていたら、春は今問題になっているヤングケアラーになっちゃうじゃん。

おじいちゃんと孫娘の組み合わせや、偏屈爺さんが人生を振り返る旅に出るという設定はとても良いと思う。
徳永えりも、他の方々も言っているようにガニ股は気になるが、名だたる名優たちの中で奮闘している。
脇を固める役者たちはさすがの存在感、とても贅沢。
特に、香川照之が顔芸なしに抑えた演技をしていて、父と娘のシーンは泣けた。

意外としばらくちゃんと見ていなかった日本の良い役者さんたちを改めて見ることができて、その魅力を再発見できたのは収穫でした。
湯っ子

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