あっ。これ、配信してたんだ!
10歳の時にリアルタイムで両親に劇場公開に連れってもらった思い出の作品。
20年くらい前にDVDを探したんだけれど発売してなくて、それからふと思い出すたびに検索しても全然見つからず、本日久しぶりに調べたらU-NEXTにありましたです! 2015年にDVDも出てたみたいだね。
43年ぶり2回目の鑑賞。
キャストについては、当時4年生の子供でも知ってるような超豪華な顔ぶればかりだったので、そこにはほとんどサプライズはなかった。
けれど、スタッフの豪華さにビビった。
クレジットされる順に紹介すると、まずは脚本が谷川俊太郎。チャトランよりこっちが前っすな。
っていうか、今調べて気づいたけど、同じ市川崑の「東京オリンピック」の脚本も書いてる。
っていうか(繰り返すなよ)、オリンピック記録映画にも、「脚本」ってロールがあるんだな。
っていうか(←おい!)、ミュンヘン五輪の「時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日」でも市川崑と組んでるじゃん。
特技監督は中野昭慶。
なるほど。70~80年代の東宝作品なら当然そうなんだけれど、当時はもちろん名前を知らなかった。
アニメ部分の作画演出が鈴木伸一。思えば、アニメと実写のコラボ映画って、私は本作が人生初体験だったな。
この人はいわゆる「トキワ荘組」。藤子不二雄の小池さんのモデルになった人ですね。
でもって、テーマ曲はミシェル・ルグラン。
「はああっ?!」って声出た。凄すぎる。
まあ、ルグランさんはこの翌年にも同じ東宝の「ベルサイユのばら」もやったんだけどね。あんな駄作に参加するとは、お金に困ってたのかな。←おい!
さらにそっちは監督がジャック・ドウミというありえなさ。あんな駄(以下略)。
「ベルサイユ~」の曲は、「これ、ほんとにルグラン?」って、いささか手抜きな感じがしたんだけれど、本作のテーマはいかにもルグランな、いい感じの曲ですね。アムロちゃんの、というか、コムロさん作曲の「CAN YOU CELEBRATE?」にかなり似てる。こっちのほうが20年ばかり先だけどね。
衣装デザインがコシノジュンコ。
音楽はルグランのテーマ以外は深町純ですが、古代音楽の担当は芸能山城組。これの10年後の「AKIRA」もそうでした。
とまあ、かくも豪華なスタッフ陣。
これは原作を先に読んでた。多分同じ1978年。
シリーズで最初に読んだのが「望郷編」。この年に完結して単行本(っていうのかな、B5くらいの大判だったけど)が発行され、すでに手塚ファンだった私は、地元のジャスコ(←出た! 田舎キーワード!)に入っていた書店で親父にせがんで買ってもらった。
次に買ってもらったのが、一作目に相当する本作の原作「黎明編」だった。
(「一作目」って、この場合「COM」版ですね。「漫画少年」版の「黎明編」や、「少女クラブ」の古代文明三部作を読んだのはもっと後。この11年後に手塚大先生が亡くなって、書店に全集が溢れかえり、それらを買い漁った時だった)
本作公開前には、順番に「未来編」「ヤマト編」あたりまでは買ってもらってたはず。
(「未来編」でのタケル再登場に大興奮した記憶がある)
「6.望郷編」「1.黎明編」「2.未来編」「3.ヤマト編」と読み進めて、いちばん好きでいちばん繰り返して読んだのが「黎明編」。あっ、違う。思い出した。「ヤマト編」は短いんで「宇宙編」と合冊だったよな。
ともかく「黎明編」は本作を観る前に何十回も読んでた。
だもんで、本作を観た時は大興奮しましたね。
何しろ、いちばん好きな回が実写化したんだもの。
しかも、監督が市川崑と来た。
いや。小学4年生に映画監督が何をする人なんてわかりません。
でもすでに「犬神家」と「手鞠唄」「獄門島」はあったしさ。まあ、どれもリアルタイムには未見だけれど、テレビでばんばん宣伝してたし、そりゃ「市川崑」って名前も覚えますわさ。
多分、私が初めて覚えた映画監督の名前って市川崑とスピルバーグなんだよね。
スピルバーグの風貌を知るのはもうちょっと後なんだけれど、市川崑は結構テレビ出てたし。
いっつも煙草吸ってる人。もしくは「ジュース! じゃなくスープにしよう」って言ってるおじさん。
その「何だか偉いおじさん」が監督してるって嬉しい感覚も、43年前の記憶を掘り起こしたら出てきましたです。
でね。でもね。
その頃の(というか、それを知るのはもうちょっと後なんだけれど)、市川崑の評価ってそこまで高くはなかったんですよ。
60年代まではかなりな傑作を量産してたし、何たってオリンピック公式記録映画を撮るってことは、ある意味その国を代表する芸術家肌の作家だってことでしょ(今回の東京2020は河瀨さんだもんね)。
それが、角川さんちの春樹ちゃんに関わって以降、ちょっと安くなっちゃってた。
文学作品の映画化が非常に多いので、「歩く日本文学全集」なんて揶揄されたり。
私も、そして世間も、「市川崑は『作家』ではなく、打率の高い作品を産み出せるプログラムピクチャーの『職業監督』だ」って思ってた時期が、そこそこ長かったんですよ。
いや。好きは好きだったんですよ。
それが証拠に、私が大学の映画研究部に入って2作目に撮った、ミュージカルからアクションからSFから、何から何までオマージュをぶちこんだ短篇8ミリ映画の冒頭は「細雪」のカメラワークのパロディから入ったくらいですもの。
それでも80年代は、少なくとも映画ファンの間では「尊敬する監督は市川崑です!」と臆面もなく公言するのはちょっと恥ずかしいくらいな空気になってた。
おかしいよね。
好きなら好きでいいじゃん!
でも、当時の一定期間はそうじゃなかった。
それを変えたのが岩井俊二や庵野秀明のような、市川チルドレン。
今でこそ再評価されまくりの市川崑をレコンキスタ・ルネッサーンス! したのは、そんなチルドレン作家たちの偉業ですね。
本作を43年ぶりに見返して思ったのは、「もう滅茶苦茶市川崑映画だよ!」ってこと。
当然当時10歳で、多分人生で100本も映画を観たことがなかったガキであった自分にはそんなことが解るはずもなかったが、半世紀以上生きて、控えめに見積もって8,000本、恐らくは10,000本以上は映画を観てきた現在の私としては、改めて市川崑の凄さ(いや、面白さと言い換えるほうがいいかもしれない)に浸りきりましたですよ、はい。
43年ぶりに覚えてたのは、まずは実質的主役であるナギ役の尾美としのり。デビュー作である本作では「尾美トシノリ」。
私より3歳年上のお兄ちゃん。
いや、当時はまだ名前は覚えなかったな。数年後の「転校生」のときに、「あ、ナギくんだ!」って思ったっけ。
本作の尾美さん、まだ声変わり前ですね。後の尾美さんとは思えぬくらいに(失礼。それはご本人じゃなくキャラのイメージね)精悍だわ。
あと、何十回も読んで、原作を隅々まで記憶していたので、「原作の再現度と、原作になかった点」には4年生ながら結構注意して観てたんだと思う。
前者はたとえば、屋根を突き抜けて飛んじゃうナギくん(当時めっちゃ笑った)とか、猿田彦の立ち往生(当時めっちゃ泣いた)。
後者は、さすがに子供でも、手塚大先生の原作にあるようなギャグが控えめに演出されてるのは理解してたけど、狼の襲撃シーンで、原作では「映画型」「ミュージカル型」などなど様々なバリエーションがあったのが、ピンクレディーの「UFO」ひとつに集約されてるところは、「うまい!」と思った記憶がある。
ナギが暴れ馬に喰いさがるところで鉄腕アトムを出したのは、当時は「やりすぎじゃん!」って思いながらも笑った記憶もある。
あと、なにより、王宮の中庭(?)に寝転がった卑弥呼の手を弓彦が取るシーン。
子供だったんで、意味は全然わかんなかったけれど、なんかザラザラしてザワザワした感触を、突然思い出しました。
今見て、そのザラザラ・ザワザワはようやく言語化できるんだけれど、それってエロいし、卑屈だし、切ないなあ。
それから、これは市川崑じゃなく、谷川俊太郎の功績だろうけれど、「猿田彦の作戦で、藁の球の中に伏兵する」シーン。
ここ原作ではさらっと描かれるだけなんだけれど、結構ヒロイックに感じるんです。
それが、本作では「嫌だ、嫌だ!」って無理矢理藁の中に捻じ込まれてる。
ここ、怖かったですよ。
そんなわけで、最初から最後まで、懐かしさだか何だかよくわからない涙を浮かべ、時々は号泣しながら観続けましたよ。
後でWikipediaを調べると、「都心では当たったけれど、地方ではコケた」みたいに書かれてたけど、当時超イナカにいた私には滅茶苦茶刺さった傑作でしたよ。市川大先生!!
さて。
うちの親父は手塚大先生の6歳下。
だから、私だけじゃなく、親父も手塚ファンでした。
そんなわけで、私が手塚マンガだけじゃなく漫画全般を読むことは、我が家では全然容認されてたんだけれど(ま、それは、私が子供の頃から漫画ばっかりじゃなく小説もたくさん読んでたこともあるんだろうけれど)、人生で何度も思い返す親父の言葉を最後に締めくくりたいと思います。
あれは小学校高学年の頃。
もはや何をしたか忘れちゃったけど、なんか人としてとても良くないことを私がしちゃったことがあるんです。
その時、ひどく親父に叱られた。
こっぴどく叱られて、最後に親父が言ったのさ。
「お前は、何のために手塚治虫を、そして『火の鳥』を読んでたんだ!」
天国の親父よう!
俺って、今、ちゃんと「『火の鳥』を読んで育った人間」になれてるのかな?