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機動戦士ガンダムの教授のレビュー・感想・評価

機動戦士ガンダム(1981年製作の映画)
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テレビ放映版のダイジェストを劇場公開した作品。擦られ過ぎた作品なので今語るべきことはもうないのかもしれないと思う。
個人的にもそこまで熱狂してガンダムを追いかけているわけではないし、アニメーションのオタクは特に敬遠しているという立場。

ただ冒頭からラストまで常に「政治ドラマ」としての濃密さに圧倒される。
政治が庶民の姿を明確に表すのが「戦争」である。
正直詳しいディテールは作中では説明されないが、宇宙に追いやられコロニー生活を余儀なくされるのは間違いなく中産階級の庶民たちである。
地球から迫害された彼らこそ真っ先の戦争の餌食になる。

難民化したホワイトベースの乗組員たち。
アムロ・レイ(古谷徹)以外の登場人物たちはかなり早い段階で戦争に取り込まれ、戦時下の生き方に順応し、そのことにあまりにも無自覚だ。
そういうことが恥ずかしながらこれまで読み取れていなかった。

冒頭サイド7からの脱出で犠牲になる人々の屍の山。生還しても棄民となり、家族を失い、地球連邦政府からも捨て石となり厄介者扱いされ蹂躙される市井の人々。
それが戦争の現実なのだ。

一方でシャア・アズナブル(池田秀一)を巡るジオン軍側の物語はより政治的だ。身の上を隠してクーデターを目論み暗躍するシャアに対して、文字通り「坊や」なガルマ(森功至)の誅殺。そこから派生するギレン(銀河万丈)の有名な演説。まさに「英雄の死」を利用した政治パフォーマンスとして「ナチス・ドイツ」のやり口を踏襲している恐ろしさ。

とにかく物語の濃密さは圧倒的で、10数話分のものを性急にまとめた結果粗雑に感じる点もあるが、見どころは豊富。

アクションシーンのケレン味もありながら「人の死」の生々しさも容赦なく描写されていて、恐怖を感じる。
スペクタクルも含めてテーマと合致していて隙がない。
壮大な政治ドラマを語る上でアニメーションが適していることを時代に対しても証明した傑作。
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