ほーりー

噂の女のほーりーのレビュー・感想・評価

噂の女(1954年製作の映画)
4.5
戦後の京都の花街・島原を舞台に、置屋(芸者ではなく遊女の方)を経営する母と東京から帰ってきた娘が繰り広げる愛憎ドラマ。

溝口健二&田中絹代コンビの最後となった作品なのだが、最初に宣言するが個人的には今回観た溝口映画の中でもベストワンであり、田中絹代も今まで観た作品の中でも出色の演技だったと思う。


主人公・初子(演:田中絹代)は島原でも指折りの老舗である置屋を女手一つで切り盛りしていた。

ある日、東京の音楽学校に通っていたもう一人の主人公・娘の雪子(演:久我美子)が帰ってくる。

彼女は婚約直前の相手から一方的に婚約破棄されたことがショックで自殺未遂を起こしていた。

その傷を癒すために久方ぶりに実家へ戻ってきたのである。

丁度その頃、初子はお店の遊女たちの掛かり付けの医師である的場(演:大谷友右衛門(のちの中村雀右衛門))に好意を寄せていた。

彼女はこの年若の医師にお金を融通して彼の念願だった個人医院を持たせてあげようと考えていた。そして的場も初子の厚意に喜んで受けていた。

いまだ傷心でいた雪子も的場に診察させた初子だったが、いつしか雪子と的場が親密となってしまい……。


何故、自分は本作が好きなのか。

いつもの溝口作品と同じく虐げられる女性が主人公で、ラストも「いつまでこういう商売が続くんだろか」と台詞で終わっているが、本作には他の溝口作品と決定的に違う点がある。

女としての……いや人間としての意地を主人公が見せて、虐げる側の敵に逆襲するのだ。

それまで防戦一方で泣き寝入りするのがほとんどだった溝口映画のヒロインの中で、本作のキャラクターは異色のように思う。

久我美子、その人である。

オードリー・ヘップバーンの如きヘアースタイルが印象的だが、本作の彼女は本家ヘップバーンのように守られる立場の女性ではなく、守る立場の女性である。

心に深い傷をおい、母親やその家業に対して憎しみを抱くが、やはり心の奥底では母との繋がりが切れないでいる。クライマックスで彼女が見せた勇気が素晴らしかった。

また田中絹代のキャラ造形も他の溝口作品と趣が異なる。本作の田中絹代の演技はピカ一で、開口一番発せられる田中の見事な京言葉(しかも冷たさがある)に「これ、いつもの田中絹代と違う!」と驚いた。

『西鶴一代女』も『雨月物語』も『山椒大夫』も身は落ちぶれ果てていても高貴な心を持ち合わせた人物だった。

しかし、本作では嫉妬に狂い実の娘に対して憎しみを抱く、ある意味、一番人間らしさのあるキャラクターを演じていた。

中盤の能鑑賞の場で娘が自分が愛した男と親しげにしているのを目撃した時のあの表情が忘れられない。もう怖い怖い怖い!

この方が何故に名女優と謳われたのかよぉくわかった。

■映画 DATA==========================
監督:溝口健二
脚本:依田義賢/成澤昌茂
企画:辻久一
音楽:黛敏郎
撮影:宮川一夫
公開:1954年6月20日(日)
ほーりー

ほーりー