紫のみなと

哀しみのトリスターナの紫のみなとのレビュー・感想・評価

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)
4.0
ルイス・ブニュエル×カトリーヌ・ドヌーブといえば「昼顔」があまりにも有名ですが、私はこちらの映画もかなり好きです。
清純な少女が養父によって犯され次第に変貌していく様、若い男性の愛を知って養父から去るが、腫瘍を患い、憎い筈の養父の元へ帰ってゆく心理、使用人の息子で昔の遊び友達だった障害のある青年に膝から下を切除した下半身の裸を見せつけるシーンなど、その全てが後世に作られた映画や物語で繰り返し表現され尽くした元型となっている様に思います。
世界一の美女カトリーヌ・ドヌーブは、口を閉じているだけで観客が勝手にあれこれ心理を想像してくれるので、とりたてて演技しなくていいんじゃないかと思う映画も多いのですが、この映画の片足を失ってからの演技はほんとに鬼が乗り移った様。映画のはじめはベレー帽に三つ編みが天使のようだったドヌーブの、後半毅然とした美貌が濃いめのチークも相まって神々しいまでに、恐ろしいまでに超絶に美しい。素晴らしい女優です。
ラスト、養女に手を出すような養父、神を信じていなかった養父が、ただの人の善い高齢者となり、教会で式を挙げ、雪の降りしきる晩神父さんたちにココアやメレンゲのスイーツ振る舞い人生とはいいものだみたいなことを言うその後ろでドヌーブが気が狂ったかのように片足で歩行練習するシーンは、いま、凄いことがスクリーンで起っている、という戦慄を観るものに感じさせ、それに続くラストシーンの過去へと遡るフラッシュバックといい、やはり、映画というものの手法や演出、倒錯や男女の性差などの描かれる世界において先駆けであり、令和の現代であっても常に衝撃的であると思います。