近本光司

哀しみのトリスターナの近本光司のレビュー・感想・評価

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)
4.0
おそらくエル・グレコの時代からそう変わっていないだろうトレドを舞台に、母の喪に服していた純朴な少女が、独占欲のつよい男に手篭めにされ、やがて病で片脚を失って性悪な女に変貌を遂げる。前半と後半でまったく異なる二つの相貌を見事に演じ分けたカトリーヌ・ドヌーヴの存在感に目を見張る。ブニュエルが彼女に投影しているのは、あきらかに聖母マリアのイメージである(終盤で二階のバルコニーから聾の少年を誘惑するトリスターナの仰角ショットから、教会に掲げられたマリア像のショットへの繋ぎ)。
 最後にトリスターナの記憶が走馬燈のよう断片的に逆再生されてゆく。二度登場する林檎の対比。全編通して印象に深いのは、聾の少年二人とじゃれあいながら鐘台に登り、吊るされた男の生首を幻視して、ベッドで目が醒ますという夢オチ。いったいどこからが夢だったのか。あの生首だけなのか、あるいはあのシークエンスすべてが夢だったのか。ブニュエルの仕掛けにはいつも驚かされるばかり。