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マン・オン・ザ・ムーンのhasseのレビュー・感想・評価

マン・オン・ザ・ムーン(1999年製作の映画)
4.5
演出4
演技5
脚本4
撮影4
音楽5
技術4
好み5
インスピレーション4

1970年代の伝説のパフォーマンスアーティスト、アンディ・カウフマンの伝記映画。

彼は、言葉で人を笑わせる「コメディアン」ではなく歌と踊りで人を楽しませる「パフォーマンスアーティスト」としての自負があった。サタデー・ナイト・ライブ等のTVショーに出演し、売れるようになるにつれ、彼の演芸は先鋭化し、人を楽しませるより驚かせる、刺激することに特化していったように見える。マネジャーのジョージ・シャピロが「お前は誰かを笑わせたいのか、それとも自分たちだけ笑えてればそれでいいのか」と厳しい指摘をしたのも無理はない。

しかし、ガンに身体を冒され余命僅かであることを知り、アンディの芸は再び歌と踊りで人を楽しませることへと回帰していった。その集大成がカーネギー・ホールでのパフォーマンスである。お婆さんが死ぬドッキリという懲りない毒気を挟みつつも、観客を「子供に戻ったかのような」高揚感に包み込み、ショーは幕を閉じる。死期を悟って原点回帰する…って流れ、個人的に好きだ。

トニー・クリフトンというキャラクターは、アンディの芸の一つである。また、それ以上に彼の分身であり、彼の本音を吐露する役割を持つ。彼がプロレス騒動等で迷走している時期は影を潜めている。アンディにも彼自身の言いたいことが分かっていないからだ。ガン発覚後は再びトニーが姿を現すようになる。ラストの舞台の「生きたい! 生きたい!」と叫ぶトニーは一体誰が演じているのか? そこは謎として残るがゆえに、アンディがうまく言い表せなかった「生きたい」という本音が印象深く耳にこびりつく。

ジム・キャリーの怪演はなかなか見もの。ダニー・デヴィートもアンディのよき理解者シャピロ役を好演している。アンディの末期に立ち会い、ウンウンと話を聞いてやる彼の慈愛に満ちた表情に、なんとも癒される…。空気階段の鈴木もぐら的な可愛げがあるね、ダニー・デヴィートって。
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