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東京マダムと大阪夫人のnetfilmsのレビュー・感想・評価

東京マダムと大阪夫人(1953年製作の映画)
4.1
 東京都西部、あひるが丘のとある紡績会社の社員寮。西川隆吉(大坂志郎)の家に洗濯機が運び込まれ、ご近所の人々はパニック状態に。西川の妻・房江(水原真知子)の貯め込んだへそくりで遂に念願の電化製品を一番乗りで手にしたのだ。房江は大阪の船場育ちで羽振りの良い典型的な関西女だった。洗濯機の到着に一番気を悪くしたのは伊東光雄(三橋達也)の妻の美枝子(月丘夢路)だろう。仕事中にも関わらず、いきなり夫の光雄に電話を掛け、更に騒動を大きくするのだ。伊東家の奥さんは東京は下町の生まれでどこか奥ゆかしいところがありながら家の中では旦那さんを尻に敷く有り様だ。西川家と伊東家は家も隣同士なら、亭主も紡績会社の並びの席で、旦那同士は仲良くするのだが、一見にこやかな付き合いのうちにも、何かにつけ張り合う仲であった。そんなある日、西川家に房江の弟・八郎(高橋貞二)が現れ、そのまま居候となる。宣伝飛行機の操縦士で、一年中空を飛び回りながら、山男のような髭を蓄えた豪胆な男である。同じ頃、伊東家にも美枝子の妹・康子(芦川いづみ)が、古い「傘忠」ののれんをつがせようため、番頭徳平(稲川忠完)との結婚を強いる父・忠一(坂本武)の政略結婚から逃れようと姉の家に転がり込むのだ。

 張り合い続ける2軒の軒先に男と女が転がり込む。最初は目を合わせようともしない。隣り合う両家の妻を尻目に八郎はうっかり伊東家で食事したり、用もないのに何度も訪れるのだ。ぶっきらぼうな高橋貞二も良いが今作を彩るのは何と言っても内気な芦川いづみの表情と視線だろう。何だかずっといじいじしていて、視線も下向きでずっと自分の本当の感情を言い出せない。いづれはこの社宅のマダム連中のようにあひるのようにやかましくなるのかもしれないが、彼女は自分の縁談で好きでもない相手とくっつけられ、退屈な人生になることに我慢ならないのだ。ところがそこへ星島専務の令嬢で心理学専攻のイマドキのモダン・ガール百々子(北原三枝)が現れ、危険な恋の鞘当ての様相を呈すのだ。勝ち気でぐいぐい迫る百々子と内気な康子では最初から勝負ありの気もするが、そこは一触即発の伊東家と西川家の奥様たちが手綱を引き、心理ゲームの様相を呈すのだ。正にタイトル通りの東京マダムと大阪夫人ののっぴきならないユニークな心理戦が繰り広げられる。そこに川島雄三は亭主同士のアメリカ行きのエピソードを盛り込むのだ。常に心ここに在らずな大坂志郎も良いが、妻の月丘夢路に翻弄される三橋達也の姿が何だかひたすら哀れで、70年も昔の作品なのに実に現代的に見えて来る。

 松竹時代最後期の作品でありながら、川島に見出され今作がデビューとなった芦川いづみと北原三枝の共演はのちの日活時代を想起させる。そう言えば三橋達也も月丘夢路も日活移籍組だ。松竹的な家族喜劇と日活的な青春群像劇とが絶妙にクロスした爽快なクライマックスだ。
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