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東京マダムと大阪夫人のデニロのレビュー・感想・評価

東京マダムと大阪夫人(1953年製作の映画)
4.0
東京マダムが月丘夢路で、大阪夫人が水原真知子。月丘夢路が宝塚歌劇の出身で、水原真知子の立ち姿を見ながら同じ宝塚歌劇の出身かと思っていたのですが、OSK日本歌劇団だった。これも対立軸なのでしょうか。東京マダムのマダムたる所以も老舗の傘屋さんの令嬢だし、大阪夫人だって大阪船場の老舗昆布屋さんのいとはんです。

マダムと夫人は言わば狂言回しで、物語の筋は高橋貞二を巡る北原三枝と芦川いづみの恋の行方。スタイル抜群で勝気なインテリ娘の北原三枝なのか、はたまた内気で純情可憐な芦川いづみなのだろうか、ということなのだが、芦川いづみは本作が映画初出演ということです。芳紀18才。彼女の映画人生を知らぬ世代であることは幸なのか不幸なのか。やはりフィルムに定着している彼女を愛でることのみに集中できる方がこころ休まります。なまじ同世代を生きると余計な情報に苛まれこころの中がサソリで一杯になるものです。

夢の電化製品「電気洗濯機」に始まる静かなマダムと夫人の冷たい戦争から徐々にドタバタ大喜劇に転化していく様に少し驚く。70年前の作品なのに笑えるということが驚きなんです。社宅の話でもあるし、出世争いの話でもあるし、媚び諂いの話でもあるし、宮仕えの転勤の悲哀でもある。そんなものに押し流される人間の心の機微はおそらく昔も今もこれからも、そんなには変わらぬものなのだろう。

人の出入りの凄まじさも川島雄三の面目躍如ということで、本作でも全面展開。社宅たるあひるヶ丘の住人も丹下キヨ子を先頭に列を成して徘徊しているし、マダムと夫人の亭主の勤務先もごちゃごちゃと賑やかです。東京下町の傘屋を行ったり来たりするかと思えば、大阪船場の昆布屋さんにまで行ったり来たり。モテモテの高橋貞二もマダムの家と夫人の家を行ったり来たり。揚げ句の恋の行方は太平洋を越えて行ってしまいます。

1953年製作公開。原作藤沢桓夫。脚色富田義朗。監督川島雄三。

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