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Mr.インクレディブルのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

Mr.インクレディブル(2004年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

かつての栄光を取り戻したい元スーパーヒーロー、ロバート・パー/Mr.インクレディブルとその家族が、悪の科学者シンドロームの野望を打ち砕く為に立ち上がるアクション・コメディアニメ。

ロバートの友人である元スーパーヒーロー、ルシアス・ベスト/フロゾンの声を演じるのは『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ』シリーズの、レジェンド俳優サミュエル・L・ジャクソン。

パー家の長女、ヴァイオレット・パーの日本語吹き替えを担当するのは『Jam Films』やテレビドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』の綾瀬はるか。

👑受賞歴👑
第77回 アカデミー賞…音響編集賞/長編アニメ映画賞!✨
第32回 アニー賞…長編アニメ映画賞!
第30回 ロサンゼルス映画批評家協会賞…アニメ映画賞!
第10回 放送映画批評家協会賞…最優秀アニメーション作品賞!

ピクサー・スタジオの長編映画第6作。
これ以前の作品は幼少期に観ているのだが、本作から年齢的な問題もあってピクサーからは離れてしまっていた。なのでこれだけ有名な作品であるにも拘らず、鑑賞するのは今回が初めて。

ディズニー/ピクサー作品としては珍しいスーパーヒーローもの(マーベルを傘下に従えている今となっては珍しくもなんともない訳だけど…)。
しかも王道ど真ん中ではなく、「ウォッチメン」(1986-1987)や「バットマン:ダークナイト・リターンズ」(1986)から着想を得たと思われる、社会とスーパーヒーローの関わりに着目したなかなかにハイブロウな作品。
社会と折り合いをつけることが出来ず喪失感に苛まれていた壮年の元スーパーヒーローが、悪の科学者との戦いの中で自らの弱さと本当に大切なものに気付き、ヒーロー/夫/父親としてのアイデンティティを見出すという、全く子供向けではないストーリーである。
こういうものを最先端のCG技術を駆使したファミリー映画として世に送り出すだから、本当に当時のピクサースタジオは技術とアイデア、共に尖りまくっていたとしか言い様がない。

『モンスターズ・インク』(2001)でのモンスターの体毛の表現や、『ファインディング・ニモ』(2003)での海中を泳ぐ魚の表現など、ピクサーの過去作には「CGでここまで出来るのか!」という映像的なショックがあったが、正直なところ本作からはそれほどの革新性を感じることは出来なかった。
ピクサー・スタジオ初となる人間社会が舞台の作品であり、その点に関してのチャレンジは買うものの、やはりまだ人間をCGアニメで表現するのは早かったようで、技術的な未熟さを感じさせる。
特に都会の街並みとそこに住む人々からは、デモ映像のような違和感を受けた。

ただ、キャラクターデザインは非常にポップかつ可愛らしく、個人的にはとても気に入った。
フライシャーの『スーパーマン』(1941-1943)を髣髴とさせる伝統的なスタイルと、ピクサーらしいデフォルメの効いたキッチュなスタイルが同居した素晴らしいデザインだと思います👍
ロバートの後頭部が薄らハゲているところなど、荒唐無稽なアニメでありながら変なところでリアリズムを出してくる悪意ある感じも最高っ🎵

純然たるスーパーヒーロー映画ではあるものの、シンドロームのアジトに潜入するくだりなどは往年のスパイ映画そのもの。レトロフューチャーな感じや牧歌的な雰囲気に懐かしさを覚える。
監督のブラッド・バードは後年『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)で実写監督デビューを果たす。なぜ『M:I』シリーズの監督に彼が抜擢されたのか不思議だったのだが、本作を観てその謎が解けたような気がする。

パー一家の物語としてはよく出来ていると思うが、ロバートとシンドロームの物語としては少々不十分であるように思う。
人間社会に溶け込む為、嫌な上司の下で嫌な仕事をせっせとこなし、楽しみといえば週に一回行われる旧友とのビジランテ活動。
そんな生きてるんだか死んでるんだかわからないロバートの人生に再び光を与えたのは、皮肉にも悪党シンドロームの出現である。
ヴィランは世界の平和を脅かす憎き存在であるが、しかしヴィランが存在しなければヒーローの存在価値は無い。スーパーヒーローとは、実は敵対するヴィランがいて初めて成り立つ存在であることをこの映画は示しています。
この着眼点はとても面白いのだが、物語が進むにつれて映画がどんどん『クレヨンしんちゃん』のような家族の絆ムービーになっていってしまい、結局シンドロームはただの悪者という役どころに落ち着いてしまう。せっかくもっと深いところまで掘り下げる事が出来るキャラクターだったのに、これはいささか勿体無い。

Mr.インクレディブルの熱烈なファンだったが故に闇落ちしてしまったシンドローム。ある意味、彼はMr.インクレディブルの"息子"な訳であり、この戦いは実は壮大な親子喧嘩であると言える。
その決着が”息子”の死亡というのはなんとも後味が悪い。家族の絆がテーマの映画なのだから、パー一家の問題を解決した上で、Mr.インクレディブルとシンドロームの物語にも上手い着地点を見つけて欲しかった。

…そういえばシンドロームの手下であるミラージュって、イラスティガールにぶん殴られたあとはベビーターンしてなんとなく許された感じになっていたけど、それで良いのか…。ヒーロー大量殺人の責任は彼女にもある訳だし、あの後逮捕されたりしたんだろうか?割とその辺投げっぱなしですよねこの映画😅

という訳で、基本的には楽しく鑑賞したのですがちょっと引っかかるところもある映画でした。
とはいえ、およそ子供向けではない物語に真っ向から挑戦するピクサーの姿勢には花丸をあげたい💮
やはり名匠ジョン・ラセターが仕切っていたころの初期ピクサーの勢いと熱量は凄いっ!!

最後に、この映画の日本語吹き替えにも触れておきたい。
とかく批判されがちなタレントによる吹き替えですが、ピクサー映画に関しては毎度毎度素晴らしいクオリティで仕上げてくる。
その中でも特に本作の声優陣は素晴らしいっ!!過去一のハマり具合だったかも!
というか、みんななんとなく顔が似てるんですよね。ロバートは三浦友和に、ヘレンは黒木瞳に、ヴァイオレットは綾瀬はるかに見える。当て書きしたのかってくらいピッタリ。
特に上手いのはシンドロームを演じた宮迫博之。もうこれは本職レベル!面白いのはこのシンドローム、顔はくりぃむしちゅーの有田哲平にそっくりなんですよね〜🤣有田さんにはオファーが行かなかったのかしらん?
とにかく本作の吹き替えは凄まじいクオリティなので、タレント吹き替えに抵抗がある人にも是非日本語版を観ていただきたい!

※本作で提示されたヒーローはヴィランが存在することによって初めて成り立つ、という言説。
このヒーロー/ヴィラン必要論については、『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017)という映画が最高の回答例を見せてくれていますので、そちらも要チェック!💡

※※余談だが、週刊少年ジャンプで連載中の大人気漫画「僕のヒーローアカデミア」(2014)ってめちゃくちゃこの映画から影響受けてるんですね!第1話でのデクとオールマイトのやり取りなんか、まんまインクレディブルとバディ少年のそれじゃないか…。
デクのクラスメイトに峰田という黒くて丸いブヨブヨをくっつけるだけの能力持ちキャラがいて、なんでコイツこんな変な能力なんだと前々から思っていたのだが本作を観て得心が行った。
黒くて丸いブヨブヨを打ち出す兵器でMr.インクレディブルを捕獲するというシーンから着想を得て作られたキャラだったんですね!うーん、納得。
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