クシーくん

裸足の伯爵夫人のクシーくんのレビュー・感想・評価

裸足の伯爵夫人(1954年製作の映画)
3.5
社交界の腐った俗物を皮肉たっぷりの目線で眺める様はサマセット・モームの小説のようだし、真実の愛を無垢に追い求める様はさしずめフィッツジェラルド的である。
‎実際小説と錯覚するほどのモノローグの多用で、ともすればロマンティシズムに満ちた語り口はどことなく浮ついていて、かなり人を選ぶ作品に思う。しかもハンフリー・ボガードとエドモント・オブライエン、それにロッサノ・ブラッツィと、三人の男たちによる回想と独白が、作劇の都合上コロコロ変わるのも少々目まぐるしい。決して平坦ではないマリアの紆余曲折した生涯とそのエピソードが多角的に盛り込まれるので、観ていて飽きないのは確かか。

性的不具が幸福な結婚生活をどん底に突き落とし、やがて破滅を齎すという作劇は50年代の映画だな。ただ好印象だったのは、ハンフリー・ボガードをエヴァ・ガードナーの相手役に持って来ず、あくまで父性的側面からマリアを支える理解者に留まっていた点。同時代のハリウッド映画は親子ほども年の差が離れたイケオジと若い娘をすぐにくっつかせたがるので、安易に恋愛でアプローチさせないのは正解だったと思う。汚れきった世界の中で、プラトニックな二人の関係は尊い。

裸足の伯爵夫人というタイトルに忠実に、マリアが事あるごとに本当に裸足になってしまうのは正直笑う。街中を歩くのに裸足は流石に不味いだろ。
クシーくん

クシーくん