【1936年キネマ旬報日本映画ベストテン 第6位】
横光利一の同名小説を映画化した作品、主演の及川道子は病をおして撮影し、本作が遺作となった。
現在観られるのはカットされた短縮版ということで色々と唐突な部分がみられるのはそのためだろう。
前半ショックなことを言われて顔のアップ、からの「ジャジャーン!」みたいな音楽が流れたときは爆笑してしまった。全体に音楽の使い方はどうかなと思ったところが多かった。
ただ株のシーンなんかは熱量を感じてよかったし、的確な演出でなかなか複雑な物語をさばいていてなかなかいいなと思った。
後年中村登のリメイク版は二つに分けているし、テレビドラマも数話にしていることからも分かる通り、一つの映画としてまとめるのには無理のある題材なのは間違いないと思う。
高之と素子の恋愛に絞ったという方向性自体は間違っていないと思う。ただ原作が言いたかったのはそこなのか?というのは疑問。むしろこの作品では希薄な経済のドロドロした部分なんじゃないか。
中途半端に高之と仁礼のバトルを入れてしまったせいで、高之の聚落への落ち込みようや、そもそも素子の立場がよく分からなくなっている。素子の父すらあまり出てこないのでそのあたりが総じて薄い。
まあ短縮版なのでもしかしたらそこはカットされているのかもしれないが…
島津保次郎監督のモダンな演出、特にサイダーやかき氷などを美しく写したり、運転する女性を肯定的に描いたりとその才覚は垣間見える。ただやはり題材自体に少し無理があったように思う。
及川道子は言わずもがな素晴らしい。