半兵衛

密約 外務省機密漏洩事件の半兵衛のレビュー・感想・評価

密約 外務省機密漏洩事件(1978年製作の映画)
3.0
ひたすら西山事件(外務省機密漏洩事件)の経緯が淡々と描写されるので決して楽しい作品ではないし、裁判の様子も政治に忖度している感覚のためひたすら見ていて辛い。それでも沖縄が日本に返還される際に交わされた「密約」という政治的暴露が、そのスクープを暴くため近づいた新聞記者と外務省に勤務する女性のスキャンダルにすり替えられて庶民の不倫に対する嫌悪感を煽られ、ひたすら市民から団体から批判を受けて裁判が政治的な内容から一気に不倫騒動に関することに変貌していく流れがあまりにもナチュラルすぎて関係者が色々努力していると思うと怖いし結局政治家には何もおとがめ無しで記者と外務省女性は有罪になってしまうのが一方的なのに戦慄する。沖縄独立の功績で誰が賞を獲得したか、何処に花を持たせたかということを考えるとこの裁判の意味がなんとなくわかってくるが、でもそんな奴らは本作には一切登場しないのも気味が悪い。

『警視庁物語』で活躍した脚本家長谷川公之によるシナリオも冴え、西山事件に関する膨大な資料や人間関係を90分というコンパクトな時間にまとめて無理なく構成している。それでいて外務省に勤務する情報を漏洩した女性やその父、所々に登場する謎の人物を脚色せず謎のまま提供することで外務省ひいては政治の深い闇が見ている人に伝わってくるのが巧み。そんな裁判を監視するように存在する登場人物や彼らにひたすら従う女性の関係は椎名林檎の曲にある「闇がこの先の日本を考えてるのか」という歌詞が思い浮かんでくる。

何も自分の感情を出さないまま表舞台から姿を消していく外務省女性を『愛の亡霊』でノリにのっていた吉行和子が憂いのある色気を出しつつ好演、他にも北村和夫や信欣三、滝田裕介、稲葉義男といった演技派の俳優たちが顔を揃えドラマを盛り上げる。あと若い頃の磯辺勉(ハリソン・フォードの吹き替えで有名)の濃いイケメンぶりも見物。

ラストは取って付けたようなところがあるが、気にくわないジャーナリストは押し潰すという日本の政治体質に対する反骨精神は感じられて嫌いではない。
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