テオブロマ

あらしのよるにのテオブロマのネタバレレビュー・内容・結末

あらしのよるに(2005年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

最初に観たのがいつかど忘れしたけど、とにかく久しぶりに鑑賞。基本的な設定と重要な後半部分はよく覚えてたけど、前半のあれこれはほとんど忘れてた。途中まで展開がのんびりしていて少し冗長に感じる部分もあるけど、それ以外は文句の付け所がない。成宮寛貴は若干棒読み気味なのがかえって天然なメイに合ってるし、ガブ役の中村獅童も役にぴったり。デスノのリュークでも思ったけど、中村獅童ってほんとに声優うまいな。

嵐の夜の翌日、ガブはメイと再会した時点でメイを食べてしまっても良かったのに、何でそうしなかったんだろう。自分と境遇がよく似てて、その上気が合いそうで意気投合したから、そんな相手を裏切るようなことはできないと思ったんだろうか。ガブの狼らしからぬ生来の優しさとか誠実さがここによく表れていると思う。
一方のメイは天敵であるはずの狼を簡単に信用し過ぎだし致命的に危機感が足りないんだけど、そんなだからガブもメイを食べる気になれなかったのかもしれない。

本来なら捕食者と被捕食者という以上の関係は築けないし築いてはいけない2匹の間に、互いのためなら命をかけられるほどの友情が芽生えたということが尊い。

2匹で群れから逃げ出して以降、天然なメイにも自分のせいでガブに我慢をさせていることは分かっていたし、そのことについてメイは負い目を感じていたと思う。いつでもその辺に生えた草を食べればいい自分に比べて、自分が寝るまでガブは空腹を我慢し続けなければいけない。ガブが狩りをする=生き物を殺すことも、狩りの痕跡が自分に見えないよう気を遣わせていることも、そうしなければガブが飢えて死んでしまうのだから口出しすべきではないことも、全部ちゃんと分かった上で全部が嫌で、それを端的に表したのが「でも嫌なんです」という台詞なんだろうな。
ここは唯一2匹が険悪な雰囲気になる場面だけど、そんなどうしようもないわがままが言えるくらいメイはガブに甘えているということがよく分かる場面でもあった。そして当たり前ながら、その気になればガブは肉食獣らしく狩りをするし、簡単にメイの息の根を止めて食べてしまえるのに、友情のためにそれを隠そうとするほど優しいということも。

かまくら内での2匹のシーンは分かっていてもやっぱり泣いた。自分のアイデンティティを全否定するガブが切ないし、そんなガブのために自分の命を差し出して彼を助けようとするメイも切なかった。
メイの頼みを聞き入れることができず、咆哮し囮としてたった1匹で多数の元仲間に立ち向かっていくガブのイケメンぶりがやばい。ここでも泣いた。

友の言葉で記憶や正気を取り戻すというありふれた展開も、この物語においては純粋に感動できる。メイもガブも良かったねぇ…!

本作は身も蓋もない言い方をすればBL的な見方ができてしまうんだけど、そんな表面的なことはどうでもよくて、深い友情と愛の物語だと思った。恋愛じゃなくて友愛とか博愛とかの方の愛。まぁ恋愛でも別にいいんだけど、それを排除して観た方が本作の伝えたいことをより深く理解できると思う。

もう少し大きくなったらぜひ子供にも観せたい。万人におすすめできる名作。
テオブロマ

テオブロマ