鉄道員マクワンは、ある日、ロンドンからやって来たブラウンが殺人を犯した現場を偶然目撃してしまいます。殺された男が持っていたトランクを見つけたマクワンが中を開けると、そこには大量の札束が…
平凡な人生を送っていた男がある日突然、欲望と引き換えに平穏な日常を失い、心理的に追い詰められていく様を描いていきます。
タル・ベーラ独特のずっしりとした重厚感が画面から伝わります。ロングショットの超々ーっ長回し、カメラワークもこれでもかと言うくらいのゆっくりのスピードで横移動します。
一番好きなのはモノクロの構図に光と影の演出…
部屋の中央に置かれた1脚の椅子の画角の素晴らしさ…窓から差す神々しい程の光が全体を白く発光させます…そして窓を閉めると…画面が真っ暗…ため息です…。
それから、『ニーチェの馬』同様に、同じ旋律の繰り返し。余韻を残し、頭の中から離れません。
台詞や表情を極限までに削ぎ落とし、ゆっくりと流れる空気の中、後半、ブラウンの妻役の長回しアップは秀逸でした。彼女の夫が事件に関わった経緯を静かに聞かされる中、彼女の表情が少しずつ変化していきます。とても惹きつけられる演技です。
ラストは大きく裏切られた思いも残りますが…
報われない人生を歩んできた人達に対する温かい思いが感じられたことは救いでした。
そして映像は真っ暗で始まり真っ白で終わります。