似太郎

キッチンの似太郎のレビュー・感想・評価

キッチン(1989年製作の映画)
4.3
👒吉本ばななの文学の映画化では、それなりに成功した方。主人公を演じた川原亜矢子が自然体で可愛いし、森田芳光監督らしいソリッドな映像センスも光っていた。訳ありなLGBTの父親役、橋爪功もインパクトのある怪演ぶりを披露している。

👒ばななの原作ファンから不満の声が上がったとしても、これはあくまで森田芳光版『キッチン』なのでやはりこの監督のイビツな『家族ゲーム』的文脈から語る方が穏当かと。

👒映像の主張がやたら強く、夜の俯瞰ショットはなぜか緑色。主人公の部屋にポツンと置かれてある冷蔵庫は何やらモノリスみたいで不吉極まりない。劇作家ブレヒトで言うところの「異化」が全編に於いて施され、徹底してリアリティを排除した役者による棒読みの台詞廻しはこの監督らしい修辞法=レトリックとして楽しむ事ができる。

👒ある意味、ばななの原作小説にあった前衛性を森田監督がさらに推し進めて「スタイリッシュだけどチョ〜難解」なテイストに昇華させたのが勝因なのだと思う。そう、森田芳光は良くも悪くも【言語遊戯】の人なのだ。だから吉本ばななの小説にあるレトリック満載の文体と相性は抜群。

この監督らしいシュール過ぎる画面構成と真緑の夜景が取り分け印象深い、爽やかな後味の残る青春ドラマの佳作。🚃
似太郎

似太郎