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キッチンのNocchiのレビュー・感想・評価

キッチン(1989年製作の映画)
1.2
先日、原作小説である吉本ばなな『キッチン』を読んだ。
とても面白かったので、映画化された本作を観てみた。

しかし、映画版では、小説の中で輝きを放っていた美点が決定的に損なわれていた。


小説は1988年、映画は1989年と、どちらもバブル景気の真っ只中で世に出された作品であるらしい。
小説『キッチン』は、家の冷蔵庫にある物だけで有り合わせの料理を作り生きのびていく尊さを、浮足立つ世間に提示していたように思う。
そして、そのような、ささやかだが確かな生き方を象徴していたのが、〈キッチン〉という空間であったはずだ。
ところが、映画版で『2001年宇宙の旅』じみた内装に改変された田辺家と、そこで生活する登場人物からは、切実な生活感や弾力のある生命力が一切感じられない。


森田芳光らしいグロテスクな画や映画音楽など、それなりに良い点もあった。
よって、この映画自体を全て否定するつもりはないが、果たして吉本ばなな『キッチン』という素材を使う必要があったのか疑問に感じた。

一つの素晴らしい小説がこのような形で消費されてしまい、本当に残念である。
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