せーや

炎のランナーのせーやのレビュー・感想・評価

炎のランナー(1981年製作の映画)
3.9
「君もいずれわかる。その虚しさが。」

ユダヤ人の血を引く移民2世のハロルド・エイブラムスは
1919年、イギリスの名門ケンブリッジ大学に入学した。
彼はユダヤ人であるという潜在的な差別を感じながらも
走ることに意味を見出し、短距離走者として実力を上げていく。

1924年のパリ・オリンピックの
100m走金メダリスト、ハロルド・エイブラムスと
400m走金メダリスト、エリック・リデルを描いた実話。

あの海岸を走る有名なシーン、
そして誰もが知るあのテーマ曲「タイトルズ」。
最近ではロンドンオリンピックでの
ローワン・アトキンソンのパフォーマンスが話題に。

見たことない方はコチラ↓
https://www.youtube.com/watch?v=CwzjlmBLfrQ

そんな華々しいパフォーマンスがされるほどだから
きっと晴れやかな気持ちになる、
イギリスの誇りのような映画なんだろうと感じがちですが、
この映画は単なるサクセス・ストーリーではなく
イギリスに残る差別とイギリス人らしさを批判した映画です。

主人公ハロルド・エイブラムスはユダヤ系移民2世。
彼はユダヤ人であることから差別を感じており
実際、大学でも学寮長から差別的発言を受けている。

「プロのコーチを雇ってはいけない」
「金で優勝するよりも負けた方が良い」

聞こえはいいかもしれないけれど
プロのコーチを金で雇うことは
イギリス人としての誇りを傷つけると
学寮長はエイブラムスを諭す。

当時のイギリス人の在り方が
どれだけ傲慢で保守的だったのか。
それがエイブラムスを悩ませた。

エイブラムスのコーチ、サムも移民である。
「私たちは孤独だ」とサムが言うように、
当時の移民がどれだけ成果を上げても、
イギリス人にはなれないことがわかる。

オリンピック後の、エイブラムスとサムの会話が印象的。

そしてもう一人の主人公、エリック・リデル。
彼はスコットランドの敬虔な宣教師。
「日曜日は安息日であり、スポーツはしない。」
「信念の人」であったリデルは称賛された。

二人の違いは何だろう。

二人とも実力もあり成果もあげている。
しかし、かたや移民、かたや信念の人。
プロのコーチを雇うのか、勝利に固執しないのか。

イギリススポーツ界の栄光を描いた映画ではなく
非常に考えさせられる作品になっています。
せーや

せーや