シゲーニョ

炎のランナーのシゲーニョのレビュー・感想・評価

炎のランナー(1981年製作の映画)
3.9
第一次世界大戦で疲弊し、大英帝国の終焉、その空気が国中に蔓延し始めたユナイテッドキングダム。
その有り様を1924年オリンピック・パリ大会を舞台に綴る本作「炎のランナー(81年)」を、今、改めて見返してみると、ややシニカルに描かれているように感じてしまう。

ググってみると、この100年ほど前のパリ大会が、今日まで続く「オリンピックは国家の国力を競う、国を挙げてのメダル争い」の兆しとなったとのこと。

そんな機運の中、陸上競技代表に選ばれたのがユダヤ人のハロルド、スコットランド生まれの宣教師エリック、そして侯爵家の世継ぎアンドリューたちである。

物語は、古き大英帝国としての伝統・慣習を押し付けてくる世間に対して、それに反発するユダヤ人としての自負&劣等感を併せ持つハロルドを中心に進むが、着眼したのは「アマチュアリズム」という近代スポーツが生み出した、権威的に思われる「価値観」である。

19世紀の英国で生まれた概念で、「アマチュアは高潔」「お金が絡むプロは不純で我々エリートとは異なる」と、上流階級を守りつつ、労働者階層を否定したものだ。

だからこそ本作の中盤、「ユダヤ人」で「プロ」であるため、会場入りを拒否されたコーチのムサビーニが、ホテルの自室でたった一人、窓から聞こえてくる英国国歌吹奏と共に、一番高くに掲げられたユニオンジャックを遠目に眺めることによって、ハロルドの金メダル獲得を知るシーンは、強く深く、そして美しく記憶に残る・・・。