るる

ラースと、その彼女のるるのネタバレレビュー・内容・結末

ラースと、その彼女(2007年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

これすごい、脚本がしっかりしてる。きちんと映像で語ってる監督もすごい。豊富な含意。

精神病患者にどのように接するかという話でもあるし、
人々が人形に接する様子は、重度の身体障がい者を介護する姿にも見える。

また、女性たちがビアンカを優しく扱う姿は、自らの似姿を愛する、少女時代の人形遊びの延長にも見える。
妊婦とその夫が人形を風呂に入れてやるのも、生まれてくる子どもを産湯に入れる予行練習に見えなくもない。

フィギュアを愛好するオタクな同僚、ぬいぐるみを愛好するちょっと幼い感じのする同僚の女。

過剰に構ってくる妊婦の義姉、自分に気があるような素振りをするわりに他の男と仲良くする女、女性経験がない自分…大人になりきれていない自分…死んだ父との関係…パートナーがいないことを兄に呆れられて心配されている…兄夫婦のガレージに住んでいる…子供が生まれたら子供を抱っこしなきゃならない…人肌が苦手なのに…

ラブドールを購入して彼女ができれば、この状況から解放されるかもしれない…という思考に至るのも、なんとなくわかる気がした。

ラースがああなった要因は、あちこちに仄めかされているけれど、明言されないのがうまい。

医者が名医。ものすごく真摯な描かれ方をしてると思った。患者を分析したような台詞を一切吐かない、症状をムリヤリ説明するような行為をしない、研究者ではなく、きちんとした臨床医の造形だった。すごい。

母、つまりは女との接し方がわからない男の話、などと言えば、陳腐なのだけれど、ラースが優しい男だということが伝わってきて…妊婦を気遣う理由もわかってくるし、過干渉な義姉を喜ばせてやれないことを優しくて正しい彼女が心配だというふうに控えめに表現したり、繊細な男であることが伝わってきて、不快感はゼロ。

ラブドールとの恋を扱っている話なのに、なかなかそんなことってないと思う。まあ、カトリックの土壌で、プラトニックな恋だからかもしれないけど。

いや、面白い。系統は違うけど、人工知能との恋を描いた『her』と同種の面白さかな。でも、筋立てとしては、こっちのが好み。

命と引き換えに自分を産んだ母親のことが念頭にあるせいで、妊婦に、一種の畏怖を感じてしまうのは、なんとなくわかる気がしたし、人形や医者、老女たちなど、子供を産めない、もしくは産めなくなった女たちに癒される気持ちも、わかる気がした。

人形であるはずのビアンカが女たちの手によって、いつのまにか自立した大人の女性に成長していくというのも示唆的で面白いし、なにもできない人形を愛玩する段階を過ぎて、女性との付き合い方を本当の意味で学んでいくあたりも面白い。

『her』でも人工知能が成長して、大人になりきれない男の心を置いてきぼりにする展開があったけれど、それ以上の展開があって、興味深く見れた。

結末は、まあ、それしかないよな、という感じではあるけれど、ラースに寄り添うマーゴは優しいね…よかったね…

個人的には、数年後、兄夫婦の子どもを愛せるようになった上で、大人の男として改めてマーゴと向き合うことができるようになったラースを見たかったけれど、そもそも、ビアンカと別れを告げたのは、これからはマーゴと向き合いたいと思うようになったからだろうし、恋愛に救われる、女に救われる男の話で良かったのかな、良かったんだろうな…兄や母や父に向き合うのは、これからだよな…

細かいことだけれど、墓場で医者が去っていくシーン、続くラースとマーゴのシーンの背景にも、立ち去る姿が映り込んでることに感動した。もう大丈夫、という示唆に思えた。

それにしても、ひとがボウリングしてるシーンで涙腺刺激されることがあるとは思わなかった。

優しく暖かな世界が退屈に感じるといえば、そうだけれど、受け取るモノが多く、面白く観れた。
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