シャチ状球体

鴎よ、きらめく海を見たか めぐり逢いのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

3.2
一般的な肉体労働者の目線から世の中の不条理や剥き出しの欲望を真正面から描く、ATG配給作品の中でも没個性的な映画。

通行人が一様にカメラの方へ振り返っていることから恐らくゲリラ撮影をしているんだろうけど、70年代当時の東京の街並みとアナログな色彩の中に田中健と高橋洋子が混ざっているだけで画になる……。
これを観てて今更思ったんだけど、『イナズマンF』の後半エピソードはこういうミニシアター系の映画に影響されてたのね……。

主演の二人(特に男)のデリカシーやモラルの無さ、果てしない衝動、生に対する強い嫌悪、空っぽの器に性だけを詰め込んだ刹那的な人生、閉鎖的な田舎、心の壁だらけの都会、鬱屈とした正体不明の感覚とも言えない何かをどこにぶつけるまでもなく生き続け、人はどこから来てどこへ行くのか……。そんな哲学的な要素を散りばめるだけ散りばめておいて何も回収しない。この潔さが都会の孤独と悲哀を強調している。

脚本で言えば、性暴力や男尊女卑、性役割の固定化といった必要性の薄い露悪さを至る所で出してくる。これらの歪な構造に対する疑問を投げかけるのであればあえて描くという意味が生まれるけど、それがないので単に不快なだけになってしまっているのが残念。
劇中で中絶手術に配偶者の同意を求められるシーンがある。2022年現在でも女性は自分の体の決定権がないので、この国の社会システムは今も昔も中世レベル……。
このレビュー、三点リーダが裏庭の虫並に多くなったけど、本編もこんな感じなので仕方ない……。

「♪すり減る青空、錆びた愛~」

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シャチ状球体

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