ちろる

おかあさんのちろるのレビュー・感想・評価

おかあさん(1952年製作の映画)
4.1
"おかあさん"を演じた田中絹代さんと、語り部である長女を演じた香川京子さんのかわいさに悶絶!ずっと見ていたい親子。

戦災で家業のクリーニング店を失った福原家は、苦労の末にようやく店を再開させる。病に伏せていたが長男が亡くなり、弟子を入れてクリーニング店を再開したそんな矢先、父が他界してしまう。

あらすじだけ書けば、随分壮絶で苦労する家族の物語なのだが、成瀬巳喜男監督作品の中では比較的平和な空気感が漂う。
慣れぬ手つきでクリーニング業のどうにか軌道に乗ろうとする直向きな母親の健気な後ろ姿。
親戚の家に次女を受け渡さざる得ないのに、養えない家の子どもを預かるという不幸な状況の中でもおかあさんは一切弱音を吐かない。

しかし、夫の弟子といえども未亡人が男を家に入れることを訝しく思いあらぬ噂が広まる小さな町でも、そんな雑音が耳に入らぬほどに一心不乱に子供たちの幸せだけを祈るお母さんの姿は神々しくて、聖母マリア様のようだったな。

あくまでも淡々と流れるような家族の日常を描いているのだが、これを単なる会話劇で楽しませるのではなく、この二大女優の魅力を最大限に引き出させる、絶妙な空気感と表情だけの演技は必見!

ラストに花嫁姿の髪結モデルになった香川京子さんが、本物の花嫁になると勘違いされてペロッと舌を出すあのシーンと、彼女の姿を感慨深く見つめる田中絹代さんの瞳に全ての心を奪われて、彼女たちの貧しさと残酷な運命を少してまも哀れだと思った自分のことが心から恥ずかしいと思うラスト。
本当の幸せってかけがえのない瞬間を大切に噛み締める事ができるっていう事なのだと思い知らされ温かいもので包まれました。
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