Ricola

おかあさんのRicolaのレビュー・感想・評価

おかあさん(1952年製作の映画)
3.9
娘の視点から語られるおかあさん。
おかあさんのすべてを知っているわけではないけれど、夫や子どもを思い、自らを犠牲にして家族にすべてを捧げてきたことは事実である。


田中絹代演じるおかあさんは、厳しくも優しく、自分は一歩ひいて家族を献身的に支える。
そんなおかあさんは苦労や不安を表にはあまり見せようとしない。そういった姿勢が彼女の表情からうかがえる。
とは言っても、家族の前ではなんとか気丈に振る舞うが、どうしても彼女の感情がこぼれてしまうことがあるのだ。それは彼女が「ひとり」になったとき、つまりその思いを隠したい人がその場から去ったときについ表情に出してしまうということだ。
例えば子どもたちにバレないようにアイコンタクトでおとうさんと会話をしたり、生活もぎりぎりなのに子供のために高級な夏みかんを買いたくて少し葛藤した表情を見せたと思ったら、そんな葛藤を微塵も感じさせずに優しい笑顔で帰ってきた息子を迎え入れる。
他にも、病気のおとうさんと昔話をして笑顔を見せるものの、おとうさんが眠ると行く末を案じて心配そうな表情へと一気に変わっていく。
子どもたちの不安や心配を明るく鼓舞するが、裏では大きな不安を吐露して涙を流したりぼーっとする。
養子に送る我が娘たちに明るく接するものの、彼女たちが去ったあとに一気に表情が曇る。このように、おかあさんの本音は、表情によく表されているのだ。

年代記のような構成で、年月が経過するとともに変化していく家族が描かれているため、どうしても悲しい出来事も多い。
しかし、そんな苦しい生活や人生のなかでも、笑いはもちろんある。
それは演出にもあらわれている。

例えば、頭をかくアクションつなぎで笑いを誘う。
ウィンクした年子(香川京子)に照れて頭をかく信ちゃん(岡田英次)。それを見て真似をするてっちゃん。
そこでショットが福原クリーニング店に切り替わり、木村(加東大介)が頭をかく様子がロングショットでとらえられる。
お茶目かつ微笑ましいショットの連続に、観ていてつい頬が緩む。

おかあさんの苦労、家族への愛情が、おかあさんのさり気ない表情の変化から読み取ることができる。
このような細やかかつ的確な表現および演技こそが、リアリティをぐっと感じられる家族とおかあさん像を生み出しているのだろう。
Ricola

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