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喜劇 大安旅行のakrutmのレビュー・感想・評価

喜劇 大安旅行(1968年製作の映画)
4.0
新婚旅行のカップルで溢れる紀勢本線の車掌とその父である機関士の恋愛騒動を描いた、瀬川昌治監督の喜劇ドラマ映画。やはり正月には、こういう安心して見れる人情喜劇が合う。実際に本作は正月映画として製作されている。

東映で渥美清主演の列車シリーズで好評を博した瀬川昌治監督が、同様の喜劇シリーズを松竹でも撮って欲しいと社長からオファーされ、松竹に移籍して「旅行シリーズ」として全11作を製作している。本作はその第1作目であり、シリーズを通してフランキー堺が主演として起用されている。瀬川監督は、当初渥美清が主演でないと同様の喜劇を撮れないと難色を示したが、ちょうど『男はつらいよ』がTVドラマとして放映されている頃で、渥美清のスケジュールが取れず、フランキー堺を主演にすることを受け入れたそうである。

本作を見る限りでは、主人公の車掌がマドンナ役の女性に恋するが、その恋は叶わないという大まかなストーリー構成は列車シリーズと同じである。主人公が独身という設定では『喜劇団体列車』に最も似ていて、主人公をめぐって恋敵の女性が出てくるというプロットも用いられている。でも、旅行シリーズと呼ばれるだけあって、列車シリーズに比べて国鉄沿線の観光地をフォーカスしているという違いもある。名産のめはりずしが美味しそう。

でも、列車シリーズと最も異なるのは、主演であるフランキー堺の演技である。旅行シリーズの渥美清は、派手な動きをせずとも、台詞回しや細かい動作だけで喜劇として十分に成立させている。一見、大げさに見えるような動作であっても、それが映画の中に違和感なく溶け込んでいる演技は、喜劇役者としての才能の高さの証だろう。一方、フランキー堺の演技はあまりメリハリが効いていなくて、笑わせたいのか、ほろっとさせたいのかが曖昧な部分が少なくない。派手な演技がちょっと浮いてしまうときもある。そういうこともあって、フランキー堺の父親役に伴淳三郎を起用しているのだろう。伴淳がいなければ、ちょっと喜劇映画として辛かったかもしれない。もちろんそうは言っても、フランキー堺が喜劇役者として一流であることは間違いない。旅行シリーズはまだ本作して見ていないので何とも言えないが、シリーズが進むにつれて板についていったのだと思う。

マドンナ役には新珠三千代が起用されている一方で、フランキー堺に積極的にアプローチする恋敵役は倍賞千恵子が演じている。個人的には新珠三千代は好きな女優さんなので違和感はないが、現在の感覚からすると、一見ミスキャストのように見える。でも倍賞千恵子は、一貫して主役級で起用されていた山田洋次作品以外では、こういう三枚目的な役を演じることも多く、配役としては自然だったのだろう。本作後も旅行シリーズに何度も起用されているようである。個人的にはこういう役柄も彼女の良さを引き出していると思う。
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