真一

四谷怪談の真一のレビュー・感想・評価

四谷怪談(1959年製作の映画)
2.4
怖くなくて、がっかりした。
映画が上映された1959年当時と、
2020年代の現在では
「恐怖のツボ」が違いすぎる。

舞台は、江戸時代末期の四谷。
美人妻・お岩は暴力と暴言に
さらされながらも、
貧乏侍の主人・伊右衛門を
深く愛し、けなげなまでに
尽くしていた。

だが伊右衛門は、
自分に惚れた若い娘と
付き合い始め、
一段とお岩をぞんざいに
扱うようになる。
伊右衛門からかつてもらった
色鮮やかな鼈甲を握りしめ、
泣くお岩。

やがてお岩は非業の死を遂げ、
変わり果てた姿で伊右衛門の
枕元に立つという話だ。

とにかく伊右衛門の
クソ亭主ぶりが、
目を覆うばかりにひどい。
そして、お岩が
耐えがたいレベルで
可哀想すぎる。
21世紀に暮らす
私たちからみれば、
伊右衛門はどうみても
極悪非道のパターナリストだ。

だから、怖くない。
哀れなお岩に
感情移入してしまうからだ。
お化けになって
現れたお岩を観ると、
どうしても
「伊右衛門め、震え上がれ」
という気持ちが先に出てしまう。

伊右衛門が自らの行いを
後悔する場面もあるが、
21世紀の価値観に照らせば
「なにを今さら」感がある。

最期を迎えた伊右衛門に
お岩が愛情深く寄り添う
シーンは、不要だと思った。
許しちゃいかんよ、クソ親父を。

思うに、1959年当時は
今より家父長制が色濃い時代だ。
身勝手な伊右衛門に感情移入し
「あっ、俺と同じだ。俺も
嫁に呪われる」と感じて
震え上がった男性が
多かったのではないか。
鶴屋南北が原作を書き上げた
江戸時代の亭主たちなら、
なおさらだ。
キーワードは因果応報。

現在は、かつてと違い、
因果応報に絡めたホラーが
減りつつある気がする。
「リング」の貞子も
「呪怨」の伽椰子も、
呪いのターゲットにしたのは
何の因果関係もない大衆だ。
そして、その方が、
現代社会に生きる
私たちの恐怖心を
くすぐるのは間違いない。
他人に干渉せず、
都会の片隅で目立たぬよう
日々を送っていても、
呪われる時は呪われる恐怖。
キーワードは不条理。

いつみても、ホラー作品は
世相を映す鏡だと思う。 

作品的には、
前半が長すぎ退屈した。
当時の技術レベルを
考慮しても、
演出が雑すぎると思った。
しかも要らないキャラが
多すぎ。
研究対象として観るのは
いいけれど、純粋な
エンタメ作品としては
あまりお勧めできません。
真一

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