カラン

四谷怪談のカランのレビュー・感想・評価

四谷怪談(1959年製作の映画)
3.5
四谷怪談シリーズ。本作がこれまでレビューを書いた中で、7番目の作品であり、以下の④である。

①木下恵介『新釈四谷怪談』(1949)
② 毛利正樹『四谷怪談』(1956)
③中川信夫『東海道四谷怪談』(1959)
④三隅研次『四谷怪談』(1959)
⑤加藤泰『怪談 お岩の亡霊』(1961)
⑥森一生『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969)
⑦三池崇史『喰女』(2014)

☆②、③、④、そして⑦

②と③と、本作④に共通しているのは、伊右衛門の悪が周囲の人物たちに拡散して、挙句に本人は成り行きで殺人したという格好になっていることだ。こうした事情については①、②、③に書いてきたことである。特に②と③はそれこそが映画を劣化させている件について詳述しておいたので参照されたい。

本作では、伊右衛門はお岩に優しい顔を向けたり、お梅を助けても礼金も受け取らずに肩を怒らせて去っていく。がさつだが、悪人でもごろつきでもない。本作では何よりもお梅が、そしてその尻持ちのお槇が、悪を企む。さらに、お梅の父である伊藤の家主と家来が悪をなす。おまけにいつものように小悪党の直助までついてくる。なぜ、このように悪を拡散させるのか。

予想だが、木下恵介の①があまりにも堂々とした映画となっており、同工異曲をしようとした②と③と④は換骨奪胎する腕もないのにパラフレーズしようとして、下手なパクリで失敗したのではないだろうか。①の後で優れていると言えるのは⑤と⑥なのである。

⑦はどうか。⑦は市川海老蔵が伊右衛門の役どころで動きはいいが大根役者である。そして上記のような徒党を組む悪人風情はいない。だが、あれが悪人か?せいぜいプレイボーイといった調子である。だからとは言わないが、四谷怪談の怨念のパワーを描き損ねている。

伊右衛門が悪でない四谷シリーズはつまらない。なぜなら、お岩の怨霊化が動機を失くすから。これはジンクスとしておこう。伊右衛門が悪でなくても面白い四谷系が現れるかもしれない。今のところは全て面白くないというだけだ。

☆ ④

本作は②と並んで、非常に面白くない。見どころは長谷川一夫のみ。セットの撮影も非常につまらない。美術もお化け屋敷のアトラクションのレベルである。おどろおどろしい化け物メイクも虚しい。例のごとく櫛で髪をすくのだが、あまりに紋切り型である。

☆長谷川一夫

1927年に歌舞伎の世界から松竹入りしたそうで、本作でも歌舞伎の舞のような流麗な殺陣を見せる。本作の唯一の救いは長谷川一夫の顔芸かもしれない。浮世絵の中の人物の表情そのままである。


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