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おかえりのyのネタバレレビュー・内容・結末

おかえり(1996年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

篠崎誠の映画は初めて観たのだけれど、あくまで日常の風景を切り取った静かなドラマにも関わらず、まるでホラー映画を観ているかのように空気が張り詰めている。仕事で遅くなったり同僚と飲みに行ったり、作ってくれたご飯が冷めてしまったり、結婚して3年も経つ家庭であれば何処にでもありふてた些細なすれ違いと、それありきでも最上と言って差し支えないほどの思いやりを持つ寺島進演じる夫の献身。「組織に狙われる」等といって近所の見回りをし始めてから、精神的に壊れていく妻に苛立ちも嫌悪もせず真っ正面から向き合うことができる、とても格好良い男だと思う。それまでの静かな空間に動きを与え、妻が急に走り出し人の車を奪って走り出し、それを夫が全速力で追いかける不思議なチェイスシーンが素晴らしかった。

本作以外、出演作品が見当たらない妻役の上村美穂、声・表情や佇まいによって不穏な空気を醸し出す天才だと思う。彼女が壊れていく理由は映画内では明言されないけれど、そうさせてしまう何かがあったのだろうし、だからこそ夫である寺島進は、あまり現実に驚いている様子が無いのだと思う(それを「流産」と断定することは難しいとは思うけれど)。カサヴェテスの『こわれゆく女』と併せて観たい。とても優しい映画だった。
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