ミシンそば

懺悔のミシンそばのレビュー・感想・評価

懺悔(1984年製作の映画)
5.0
ペレストロイカの一環にあたるグラスノスチが進んだ結果、ソ連(に虐げられたジョージア)で生まれた映画だが、その作り自体がソ連そのものの縮図、今までソ連がしてきたことを150分に超凝縮してぶち込んだ恐るべき傑作。
実際にソ連に虐げられた経験のあるアブラゼが描いた本作はその部分が露骨も露骨(そして本作自体も3年発禁喰らったようだ)。

そう言う観念的な部分はともかく一回置いとくとして、まず観始めて、入り方が恐ろしく独特なことに驚く。
埋葬された死体を掘り起こすって、何?
そしてその犯人である女性が法廷で過去を語る形で話が展開するのが正直とても面白いし、同時に彼女とその家族に起きたことを、寓話的だけど中身はほぼ実話ってくらいのソ連(もっと言えばスターリン時代のソ連)批判を交えながら行うとは、あらすじを読んだだけでは思いもよらないことだ。

独裁者の規模は市長って言うローカルではあるが、そんな規模でも権力が人を変える様、人が悪魔にだってなれる瞬間があると言う事実に、規模は関係ない。
市長ヴァルラムは表面上はとても魅力的で、歌がとても上手く、話も面白い。
それでも、何か一つの些細なきっかけで、ヴァルラムは自身の権力が無際限であることを知って暴走することとなり、どう見てもスターリンにしか見えないような狂気を孕んだ言葉を宣う。

「猫のいない部屋でも、猫を捕まえられる」
ヴァルラムのこのセリフにはゾッとさせられるし、スターリン時代がこの一言に凝縮されているのが嫌でも分かる。
期待も無駄だし、善性や合理的観点に訴えることも無駄。
全てが無駄な八方ふさがりだ。
現代にパートを戻した後も、犯人の女性に軽犯罪しか適用できないから精神病院に入れようとする様なんか見てると、彼らはきっと反省することはないんだろうなぁってひたすらに思わされる。
ヴァルラムの孫、ヴァルラムの息子双方の行動一つとってみても、彼らがしたのは後悔に過ぎず、人間は反省なんかしないからいくらでも繰り返す、アブラゼは「反省」を描いているんだろうけど、それでも自分にはそう映った。

何にせよ、今年の2月に観た「ダントン」に匹敵し、また題材自体も似ている怪作であり、体力を使うキッツイ展開も多いけど観終わった後に不思議な涼やかさも確かにある。
そんな何とも言えん味わいの、決して再び到来しないでほしい時代を俯瞰できる傑作であった。

なので、満点。